世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ⑥ ~トンネルドンとの戦いだ!~

前回は“分岐(ポイント)”についてお話しました。今回は予告のとおり“狭さ”についてお話してきます。

“狭さ”といっても、新幹線の車両のサイズのお話ではありません。実際に新幹線に乗るとわかりますが、2列と3列の計5列あります。JR東日本の東北新幹線や上越新幹線では3列+3列の6列というものもありました。一般的な在来線の特急は2列+2列の4列が一般的ですね。やはり新幹線の車両は広いということです。今回の“狭い”というのは、“トンネル”や“すれ違い”の狭さです。
日本の新幹線のトンネル断面積は約65㎡が基本です。車体の大きな新幹線も充分に通ることのできる大きさなのですが、海外の高速鉄道のスタンダードは100㎡以上なんです。なぜ、トンネルの断面積が大きな方がいいかと言うと、小さければ小さいほど列車がトンネルに入った時の空気抵抗が大きくなり、列車への衝撃や揺れが大きくなってしまうからです。また高速で進入した車両によってトンネル内の空気が反対側に押し出されて、反対側にある出口では“トンネルドン”と呼ばれる衝撃波が発生して、砲撃のような音が出ることもあります。すれ違いの距離も、“狭い”と言わざるをえません。すれ違い同士の線路の中心から線路の中心の距離は、日本の新幹線は標準では約4.3mですが、海外の高速鉄道では軽く5m以上あります。フランスの高速鉄道TGVでは10mという区間もあります。出来るだけ用地買収を減らし、建設費を抑えたい日本にとっては、苦肉の策であったのでしょうが、これが高速度でのすれ違い時の衝撃や揺れの問題を生んでしまいました。
それぞれの問題をどのように克服してきたのでしょうか。初代0系新幹線は、丸い鼻を持ったような顔をしていました。現在の東海道新幹線の主力車両“N700系”は、白地にブルーのライン以外は0系の面影はありませんね。それもそのはず、“遺伝的アルゴリズム”を取り入れてデザインされたからなんです。といっても文系のわたしにとっては、遺伝的アルゴなんたらというものは咀嚼できませんでしたが… とにかくそれを取り入れ、さらに、トンネル進入の際の断面積の変化率を一定にさせるという設計で、あの顔が完成しました。トンネルの問題をあまり考えなくてもいい海外の高速鉄道の顔と異なった日本独自のデザインになったのは、そのような理由からなんですね。またすれ違いの衝撃や揺れを減らすのに効果を発揮したことは言うまでもありません。

いかがでしたでしょうか? 日本の新幹線はすごいんですが、その弱みもまた色々とあるんです。それをさまざまな技術や対策で乗り越えてきました。新幹線の進化はどんどん続きます。これからも新幹線の進化からは目が離せませんね。

では、また!

分岐器

世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ⑤ ~たかが分岐、されど分岐~

“最高営業速度”“線路”の切り口から新幹線の弱さをお話しましたが、次は新幹線の“分岐(ポイント)”における弱さをお話していきますね。

東京駅や新大阪駅のような始発駅にはホームが何面もあり、たくさんの列車が入線して停車し、そして“ゆっくりと”発車していきます。途中の停車駅の大きな駅以外でも、“ゆっくり”と発車していきます。基本的な新幹線の駅の構造は、真ん中には通過していく列車のための直線の線路が、手前のホーム側にはその通過列車を避ける待避線と乗り降りするためのホームを兼ねた線路があります。この基本的な構造の駅で気付くことはありませんか? そうです、ホームに入ってくる時も、出発して行く時も、“ゆっくり”と走行して、スピードアップをしていく列車はいないのです。理由は簡単、駅の直前直後に設けられている分岐があるからなんです。しかも、スピード狂の新幹線らしからぬ“制限速度70㎞”なんですよ。駅を出入りする長い編成の新幹線が、うねうねと進んでいるのを思い出せるかと思います。あの光景は、“高速”と謳っている高速鉄道ではありえないんです。世界でも日本の新幹線くらいなもんです。
高速運転のジャマをする速度障害を出来る限り排除することが、高速鉄道の基本です。ですので、時速320㎞のスピード全開で疾走していたい新幹線に、制限速度70㎞とは残念な話ですね。フランスの高速鉄道のTGVでは、“65番分岐器”というものが使われていて、なんと“速度制限220㎞”! 分岐を本線から外れていく時にでも時速220㎞まで出せるとは、大したものです。実は、日本の新幹線でもTGVの時速220㎞とはいきませんが、“速度制限160㎞”の分岐があります。“38番分岐器”と呼ばれていて、長野オリンピックの開催に合わせて開業した当時の長野新幹線の群馬県の高崎駅あたり、今の北陸新幹線と上越新幹線の分岐に設置されています。その後、全国の新幹線に導入されていき…ということもなく、今でも多くの新幹線の駅では制限速度70㎞が残っています。その分岐器の可動部はなんと1,400mもありますから、東京駅や新大阪駅のようなところに設置するのは現実的ではありませんね。これがスピードアップの障害となっていますが、一度作ってしまった鉄道設備を変更するのはとてつもなく大変なようです。

海外の高速鉄道のトンネルよりも断面積が小さかったり、列車同士のすれ違いの距離も近かったりと、高速化を阻む障害がいくつもあるんですが、次回はそれらについてお話する予定です。

では、また!

除雪電車

世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ④ ~鉄道は足もとから~

日本の新幹線の弱みについてお話しています。前回は“最高営業速度”の切り口からでしたが、今回は“線路の弱さ”です。

新幹線の最高営業速度の引き上げには、騒音など克服しなければならない障壁が色々とあります。隠れ農業国であり広い起伏があまりないフランスのようの国と違い、狭く起伏が激しい国土の日本ではかなりの制約があります。東京や大阪のような都市圏を離れると車窓からは田んぼが広がってのどかな風景が…とは言っても、新幹線の沿線には民家があり騒音問題は深刻です。今は日々の研究の成果のお陰で、スピードアップと低騒音化を実現してきました。さらなる高速化には、1970年代の当時公害大国だった頃に作られた厳しい騒音基準をクリアしなければなりません。北海道新幹線の札幌延伸までにはその基準をクリアして時速360㎞運転を実現して欲しいものです。
少し話がずれましたが、日本の新幹線はそもそも線路の設計が悪いのです。東海道新幹線が開業した50年以上前は、時速200㎞超の高速鉄道は未知の世界でした。冬になると関ケ原あたりは積雪に見舞われ、新幹線がスピードを落として運転して遅れが発生していることが度々あります。豪雪地帯を走る東北新幹線や上越新幹線などと違い、東海道新幹線の車両は雪に強くありません。ですので、線路に積もった雪をスプリンクラーで水を撒いて雪を溶かしています。「じゃあ、それで問題ないじゃない。スピードを落とす必要はないじゃない。」という声が聞こえてきそうですが、実はそのスプリンクラーが撒く“水”に問題があるんです。東海道新幹線は、多くの区間で土を盛って高架作る“盛土”という方法で建設されました。土を盛ったその上にバラストと呼ばれる砂利を乗せ、さらにその上に線路を敷いています。なので、雪を融かそうと大量の水を撒いてしまうと盛土が崩れてしまうため、たくさんの水が撒けず、安全なスピードまで落としているんです。高速鉄道に初挑戦の東海道新幹線だったからこその弊害と言えますね。もちろん、東海道新幹線以降に建設された他の新幹線ではその反省を活かし、コンクリートの高架橋やバラスト(砂利)を使わないコンクリートで線路を固定するスラブ式軌道など、路盤を強化する方式を導入しています。

次回は線路の分岐“ポイント”についてお話したいと思います。

では、また!

高速鉄道

世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ③ ~夢の時速320㎞運転への軌跡~

前2回で、新幹線のすごさをお話してきました。本当はもっともっとあるのですが、ひとまずは大きく、そしてみなんさんみもわかりやすい“全国の路線網”と“運行ダイヤ”にについて取り上げました。ですが、新幹線も素晴らしいことばかりではありません。今日はそのウィークポイントに触れていきたいと思います。

“中国の高速鉄道網は日本の新幹線の9倍の長さがあります”と以前にお話しました。実はそれに加えて、もうひとつ日本の新幹線を上回っていることがあります。“最高営業速度”です。現在の中国の高速鉄道の最高営業速度は“時速350㎞”と、世界で断トツで1位となっています。2011年温州での衝突脱線で多数の死者を出したあの事故の後は、“省エネ”“運賃抑制”という理由で“時速300㎞”に抑えられていました。衝突脱線で高架橋から落下し大破したため、当局がもう生存者はいないということでその場で事故車両を埋めちゃった…という世界が唖然としたあの有名な事故ですね。しかし、2017年には“時速350㎞運転”を再開していますから、再び世界1位になりました。
ひるがえって、日本の新幹線の最高速度はというと、早い順に、東北新幹線が“時速320㎞”、山陽新幹線は“時速300㎞”、東海道新幹線は“時速285㎞”、それ以外の北海道・九州・北陸新幹線は“時速260㎞”、そして、上越新幹線はなんと“時速240㎞”なんです。ボロ負けというほどではありませんが、やはり負けてしまっている感はありますね。「世界をリードしてきた日本の高速鉄道の技術は、歴史が20年もない中国にもう追い越されてしまったのか…」と思われるのは早合点です。その理由は簡単です。日本の新幹線は、国鉄時代の赤字経営や民間企業として利益を出さなければなりませんから、「経済性」「安全性」を重視しています。つまり、“経済的営業速度”という考えを基に、それぞれの路線の最高速度を設定しています。東北新幹線がわかりやすい例かと思います。1985年(昭和60年)の開業当時は“時速240㎞”、岩手県の盛岡まで延伸されたころにはE2系が導入され“時速275㎞”となりました。その後は “時速300㎞”、現在は“時速320㎞”に引き上げられました。距離が延びたり、飛行機から客を奪ったり、その時の置かれた状況によってスピードアップしてきました。札幌まで延伸された際には“時速360㎞”を想定しているようですね。実際に日本の新幹線の走行試験での最高速度は“時速443㎞”を達成していますが、騒音対策などを考えると今のところ“時速320㎞”が限界のようなのです。2030年(令和12年)の北海道新幹線の札幌延伸時には最高営業速度“時速360㎞”を目指して次世代新幹線を開発中、まだまだ新幹線の高速化からは目が離せないところです。

新幹線の高速化を阻む要因は、実は色々と複雑に絡み合っています。それについては、また特集したいと思っています。“最高営業速度”以外にも新幹線の弱点はありますので、次回以降もお話していきますね。

では、また!

貨物列車

世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ② ~高速度の大量輸送機関として~

前回は全国に張り巡らされている…ほどではないかもしれませんが、日本の新幹線は全線に渡って黒字経営をしているということをお話しました。海外では不採算事業の部類に入る高速鉄道ではありえないことなんですが、日本ではそれが当たり前です。新幹線を運営しているJR各社の努力の積み重ねの結果でもあります。それについて、今回はお話していきたいと思います。

東海道新幹線の1時間あたりの本数をご存知でしょうか? 時速285㎞で東京~新大阪間を疾走しているのですから、ちょっと前がつまったらすぐに追いついてしまいますね。ちなみに、東北・北海道新幹線は時速320㎞で運転されています。東海道新幹線の時速285㎞は一分間に4,750m進む速さですから、1㎞進むのに約12秒ですからね。身近なところで1㎞を想像してみてください。それを12秒ってとてつもない速さでしょ!? そのスピードで走っている新幹線、多い時間帯では1時間に15本も走っています。間隔が5分よりも短いんです。列車は駅に入ってきてからお客さんの乗り降りを待ってそして出発、どう考えても2~3分掛かりますよね。全列車が停車する品川駅では、もうその光景は圧巻ですよ。しかも、その本数にもかかわらず、列車は寸分狂わず入線して発車していきますから、もうこれは日本でしか達成できない海外では不可能な神ダイヤですね。通勤電車とほぼ同じような運転間隔ですから、そのすごさがわかります。
東海道新幹線においてはすべての編成が16両で構成されています。1編成あたりの乗車定員は1,323名、1時間に最大15本ですから、単純計算で19,845名も運ぶことが出来るのです。全車満席ということはなかなかありませんが、朝と夜はかなりの混雑ですから、それに近い人数は運んでいるのではないでしょうか。年間約1億2,000万人を運ぶ東海道新幹線は、他の新幹線の中でも断トツの稼ぎ頭、東海道新幹線だけで年間1兆円も稼ぎます。東海道は今も昔も何百年も前から移動の大幹線、現在建設中の東海道リニア新幹線も黒字にできる自信もうなずけます。もし、東京~大阪間の移動が、8時間も掛かる在来線か、1時間で移動できるが定員が250名ほどの飛行機しかなければ、戦後の東名阪の発展はここまでではなかったかもしれませんね。

いかがでしたでしょうか? 日本の新幹線だから実現できたすごさと異常さがわかって頂けたかと思います。でも、そんな新幹線ですが大きな弱点がいくつもあるんです。次回以上はそれについてお話する予定です。

では、また!

新幹線勢ぞろい

世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ① ~新幹線網の総延長は?~

全4回のお話で、わたしがどれだけ鉄道愛があるかということがおわかり頂けたかと思います。「日本の鉄道はすごいんです!」という気持ちは伝わったかと思うのですが、その代表格として度々祭り上げられている“新幹線”についてのお話です。

2021年現在、日本全土に広がっている新幹線の営業路線はなんと総延長3,000㎞! 「あれ? 意外に短くない?」と思われたかもしれません。中国の高速鉄道の総延長は25,000㎞ですので、それに比べると9分の1ほどの長さですし、そもそも中国の高速鉄道の歴史は20年もありませんが、総延長だけでいうととっくに日本を追い越してしまいました。中国は国策として中国全土に高速鉄道網を張り巡らせるという大号令の下、とりあえず碁盤の目のように高速鉄道網を作り上げてしまいましたから、あれだけ広い国土がありますから当然といえば当然です。しかし、日本が新幹線建設の際に当初から重視してきたのは“採算性”です。1970年代、今の中国のように日本全土に新幹線を張り巡らせる計画がありました。岡山から瀬戸大橋を渡って高知に至る“四国新幹線”や、大阪から日本海側の鳥取や島根を経由する“山陰新幹線”、和歌山から徳島に渡り四国を東西に通ってまた海を渡って大分まで至る路線など、日本中を網羅する計画でした。今思うと無謀とも思いますが。実際に瀬戸大橋は新幹線が走ることが出来るように、線路を敷設する幅は、新幹線と同じ標準軌で建設されています。余談ですが、新幹線:標準軌(1,435㎜)と在来線:狭軌(1,067㎜)で線路の幅が違います。しかしながら、四国の在来線を運営するJR四国は、民営化以来ずっと赤字で厳しい運営が続いていますし、山陰新幹線が走っていたであろう山陰本線は、いまだに単線で特急は2両編成ですし、ちょっと無理があったのかもしれませんね。でも、夢を描くことはいいことです! そして、諦めることも… 
話をもとい、日本の新幹線の総延長は短いのでは?というお話でしたね。今は、鹿児島から九州を横断して博多まで至る“九州新幹線”、博多から新大阪への“山陽新幹線”、初代新幹線0系が走った東京への“東海道新幹線”、そして、東京から東日本を縦断して北海道へ至る“東北新幹線”と“北海道新幹線”と、日本列島を背骨のように貫いています。そこから、日本海側へ延びる“上越新幹線”“長野・北陸新幹線”もありますね。実は日本をざっくりと網羅しているのです。しかも、全線に渡って黒字です。中国の高速鉄道は、北京~上海間くらいしか黒字化できていないという状況ですから、日本の新幹線の堅実経営がよくおわかり頂けるかと思います。

まだまだ長くなりそうなので、今回はことあたりで。その新幹線にも弱さというか貧弱な点もいくつかあります。でも、次回ももう少し新幹線のすごさを語らせてください。

では、また!