近鉄の新観光特急“あをによし”が来春デビュー ~鉄道車両っていくらする!?①~

令和3(2021)年10月8日、近鉄(近畿日本鉄道)から新しい観光特急のデビューがアナウンスされました。近鉄は、大阪・京都・奈良・名古屋・伊勢志摩などを結ぶ私鉄では日本最長の路線長を持つ鉄道会社、名阪間の速達特急でもおなじみです。大阪から名古屋へは、時間の新幹線か乗り心地の近鉄か、いつもとても迷うところ。昨春(2020年)には名古屋と大阪をむすぶ名阪特急“ひのとり”の新型車両がデビューしました。 “電動式フルアクティブサスペンション”というなにかよくわからないシステムが採用されているというところにも、近鉄のやる気が感じられますね! (ちなみに “電動式フルアクティブサスペンション”とは、機械的にではなくて電動制御で横揺れを大幅に減らす鉄道では画期的なシステムらしいです…) その新車投入に押しやられる形で、今夏でデビュー50年近くを迎えた12200系特急が引退しました。“スナックカー”と言えばわかる人もいるかもしれませんね。近鉄特急と言えばとイメージしている多分それです。で、その引退した12200系を改造して観光列車にしてしまおうというのが、今回のコンセプトのようです。

近鉄 観光特急「あをによし」ツインシート(イメージ) 12200系

2人用ツインシートと3~4人用サロンシートの2種類の座席構成で、一般的な特急の2列ずつ並ぶのではなく1列ずつで合わせて84席。コロナ禍が落ち着いていると信じたい来春(2022年)には、グループ客やインバウンド需要を見込んでいるとのことです。そして、この投資額はなんと3億3,000万円! これが高いのか安いのか? そもそも、鉄道車両っていくらする?? 次は鉄道車両のお値段についてお話したいと思います。

近鉄 特急 12200系

では、また!

世界に誇れる日本の鉄道④ ~続 “鉄道”という稼ぐ事業~

前回は“鉄道事業”についてお話しましたが、中途半端なところで終わってしまいましたので、続きをお話したいと思います。

世界的には鉄道事業は国営か国有が基本で、大体の国では不採算の事業だとお話しました。しかしながら、日本ではJRの上場4社と私鉄大手16社が乱立(?)していて、それはそれぞれの会社がしっかりと利益を出している世界的には特異な状況だということなんです。
なぜそんなに利益を出せるんでしょうか? 答えは簡単! “鉄道事業だけ”でもうけを出そうとしていないからなんです。まずはバスから始まって、駅ビルやショッピングセンター・ホテル・不動産・レジャー・広告・飲食・旅行・建設など多彩な事業を展開ています。例えば、すでに戦前にこの仕組みを編み出したのが“阪急”です。ターミナル駅には“阪急百貨店”を建てて、郊外には“宝塚歌劇”を作って、ホテルは“阪急ホテルズ”(今は阪急阪神第一ホテルになりました)に、沿線の住宅開発もして“阪急バス”を走らせて、“阪急不動産”が販売して、旅行に行くなら“阪急交通社”… もう沿線住民はがんじがらめですね。依存してしまっていると言っても過言ではありません。阪神なんかは、余っている高架下のスペースでレタスの栽培も始めちゃいましたしね。西で言うと“阪急”、東では“東急”が特に成功した例ではないでしょうか。この2大グループにいたっては、鉄道の売上は3割しかありません。ちなみに、JR九州の鉄道事業は、民営化以来ずっと赤字です。近年は天災の被害が多く、黒字化はさらに遠のいています。ですが、その他のグループ事業で稼ぎまくっていますので、しっかり黒字を出して上場を果たしました。逆を言うと、グループ事業の利益で赤字の鉄道事業を支えているといえるかもしれませんね。
 新幹線と飛行機のどちらが多く使われているか、と話題に上がることがあります。よく“4時間の壁”とか“700㎞の壁”と言われているのはご存知ですか? “4時間を切れば新幹線が有利”とか“700㎞を超えると飛行機の勝ち”と巷ではよく言われています。この法則が正しいのか否かは賛否あるのですが、700㎞あたりの東京~広島は飛行機の勝ち、新幹線で2時間21分の東京~新大阪は新幹線の圧勝、ってな具合です。鉄道を利用する回数は日本はぶっちぎりですが一回当たりの距離は短い、というお話を以前しました。これは、距離や時間によって飛行機か新幹線か在来線かを選べるということなんです。長距離は飛行機、中距離は新幹線、短距離は在来線か車と。さらに、短距離は車よりも鉄道を選びがちというところも、日本独特の傾向です。これは、JRや私鉄や地下鉄の膨大な鉄道ネットワークがあるからこそ成しえたと言えるのです。

はじめは3回に収めようと思っていましたが、つらつらと書いているうちに長くなってしまいました。“遅れ”“輸送人員”“鉄道事業”の3つの視点から日本の鉄道のすごさをお伝えしましたが、まだまだすごいところは山のようにあります。ちょっとマニアックな視点になるかもしれませんが、これからも温かい目でお願いします。

では、また!

世界に誇れる日本の鉄道③ ~“鉄道”は稼げる事業!?~

今回も引き続いて、“世界に誇れる日本の鉄道”について書いていこうと思います。前回・前々回は “遅れ”と“輸送人員”の観点から日本の鉄道のすごさをお話しました。今回は残りの“鉄道事業”の角度からお話したいと思っています。

さて、前回は“輸送人員”についてお話しました。世界第2位のインドを大きく引き離して日本はぶっちぎりの世界第1位で、日本人は日常的に鉄道を利用していることが分かって頂けたかと思います。しかし、こんな疑問も浮かんでくるかもしれません。フランスもドイツもインドも、どこの国も全国を網羅している鉄道会社は基本1社だけ。けれども、日本はJRも6社、私鉄にいたっては大手16社もあるから、「それぞれの会社が勝手にカウントしているだけだ!」という声が聞こえてきそうです。例えば、最寄の駅からJRに乗って都心まで行って、地下鉄に乗り換えて会社に行く… これですでに2回カウントされてしまっていますね。いわゆる、“他社線連絡”ってやつですね。だから、正確な数字じゃないんじないかと。仰せの通りなんです。乗車回数でみるとぶっちぎりの世界第1位なんですが、一人が一年に利用する乗車距離の合計は世界第2位、トップではありません。ちなみに、第1位はスイスの2,400キロ、日本は2,000キロ、第3位のフランスは1,400キロと、各国めちゃくちゃ大きな差は開いてないんです。「実はたいしたことないんじゃない?」と…
 この“他社線連絡”というのは、日本独特の発展を遂げたシステムなんです。JRと地下鉄をまたいだり、私鉄と私鉄を乗り継いだり、直通運転している列車もありますね。例えば、東京から広島まで新幹線を乗ったとすると、“東京~新大阪”はJR東海“、新大阪から広島”はJR西日本の2社、池袋から横浜の元町・中華街まで行くなら、“池袋~渋谷”は東京メトロ、“渋谷~横浜”は東急、“横浜~元町・中華街”はみなとみらい線となんと3社、例えを上げ始めるとキリがありませんね。鹿児島から新幹線で岡山に、そこから智頭急行を経由して鳥取、天橋立観光で北近畿タンゴ鉄道を経由して京都から新幹線で東京へ、そして、札幌へは寝台列車カシオペアに乗ってIGRいわて銀河鉄道を… もう数えるのをやめてしまいたいくらいの他社線連絡ですね。さすがにみどりの窓口の職員さんも路線図と端末とにらめっこは間違いありません。「ごめんなさい、職員さん」って気持ちになりますね。
これはどういうことでしょうか? 地方の赤字路線が第三セクターになって生き延びているというところもありますが、大手私鉄16社はどこもちゃんと利益を出して、それぞれが自立し、そして “民間鉄道”が発達したということです。逆に言うと、海外では鉄道は赤字で不採算な事業であり、鉄道が利益をあげているのは日本だけなのです。あくまで海外では“国営・国有”が基本であって、儲ける業種ではないのです。そこでまた、「国鉄は大赤字で解体したじゃないか!」という声も聞こえてきます。昭和62年(1987年)に国鉄が解体された時点での負債額は「37兆円」というとてつもない金額でした。JR東日本・東海・西日本が12兆円、借金返済のために組織された国鉄清算事業団は25兆円を背負わされました。今では、JR3社の負債は半分ほどに、清算事業団は17兆円くらいになりました。国営だとなまけちゃってたのかもしれませんが、これについてはまた改めて語りたいと思います。こうして、利益を出して借金を返済していっています。

思ったよりまだまだ長くなりそうなので、今回はこれくらいに。次回は引き続き“鉄道事業”についてお話したいと思います。想いをつらつらと書いているので、締まりが悪いですが温かく見守ってやってもらえるとうれしいです。

では、また!

世界に誇れる日本の鉄道② ~輸送人員は世界第何位!?~

前回に引き続き、“世界に誇れる日本の鉄道”について書いていこうと思います。前回は日本の鉄道のすごさを“遅れ”の観点からお話しました。今回は“輸送人員”の角度からお話したいと思います。

「249億人」
この数字はなんだと思いますか? 世界のそれぞれの会社や行政が“年間旅客輸送人数”を発表しています。一年間にその国で何人のお客さんが鉄道を利用したのか、という数字です。日本の人口が1億2,600万人、日本国民全員が一年に一回乗ったとすると“1億2,600万人×1回=1億2,600万人”というような計算です。例えば、前回に少しお話した世界に誇るTGVを擁するフランスは、世界6位の11億人。フランスの人口が6,700万人なので、一人が一年に16回乗っているということですね。この「249億人」という数字、なんと日本なんです。しかも、2位以下を引き離してぶっちぎりの1位なんです! 一年に197回は鉄道を利用してるってことなんです。2位はインドで65億人、一年にたった5回なんですよ。鉄道好きじゃない方でも、車両の屋根の上に満載のお客さんが乗ってるのをみたことありませんか? たくさんの人が利用しているように思いますが、そうじゃないんですね。あの屋根に乗ってる人たちはお金払っているのか、人数にカウントされてるのか、は微妙なところですけれど… 
そして、鉄道会社ごとのランキングでも、日本が独占しています。先ほどのフランスは、昔の日本国有鉄道(いわゆる国鉄ですね)のようなフランス国鉄(略称はSNCF)が全土の鉄道を運営しています。その年間輸送人員は「11億人」。これは東急(東京急行電鉄)とほぼ同じです。それよりも多いのがイギリス国鉄で「12億人」、ドイツ全土の鉄道を運営しているドイツ鉄道が「18億人」、このドイツ鉄道を同じくらいの人を運んでいるのがJR西日本なんです。本州の西側を担当しているだけなので、ドイツ鉄道の7分の1くらいの路線距離しかないのにです。そのほかには、JR九州で「3億人」、JR東海は「5億人」、大阪の地下鉄の大阪メトロは「8億人」、東京メトロと東京都の地下鉄を併せると「34億人」… そして第一位はJR東日本で、なんと「61億人」です! 首都圏の通勤需要はとてつもなく大きなものがありますが、本州の北側半分だけでですよ? 中国全土の輸送人員が「18億人」ですから、いかに日本の鉄道が人々を運んでいるのかがおわかりいただけるかと思います。ちなみに、JR東日本は会社ごとの鉄道の営業収入でも世界第1位! 1兆6,000億円というとてつもない大きな金額、営業路線の距離が何倍もあるフランス国鉄やドイツ鉄道をも上回っています。なじみがあり過ぎてご存じないかもしれませんが、JR東日本は世界最大の営業規模と輸送人員を誇る世界最大の鉄道事業者なのです。一番きっぷを売って、一番人を運んでいる、ということですね。日本の鉄道ってすごいでしょ!

今回はつらつらと数字が並んだ原稿に仕上がってしまいましたが、次回はその“からくり”と“鉄道事業”の角度からお話していきたいと思います。

では、また!

世界に誇れる日本の鉄道① ~日本の遅延は海外の定刻!?〜

これから“世界に誇れる日本の鉄道”について書き連ねていきたいと思っています。鉄道を愛して三十余年、世間に広く鉄道への理解を深めてもらうために、好きなことをどんどんと書いていきたいと思います。“鉄道おたく”ではなく“鉄道関係者”というスタンスに近いかと思います(これについては、また別の回で詳しく…) では、温かい目で見てやってくださいね!

では、今回のテーマは“世界に誇れる日本の鉄道”。細かいマニアックな内容は改めてにして、まずは当たり前のよう生活に溶け込んでいる“鉄道”をテーマに軽く話していきたいと思います。

昭和38年(1963年)7月、日本で初めての高速道路“名神高速道路”が開通しました。東京オリンピックの一年前、“三丁目の夕日”の頃、まだまだ日本は発展途上国、これから世界第二位の経済大国へ登り始めていく頃ですね。まだ自家用車が普及していなかったこの頃は、旅客の鉄道のシェアは圧倒的! ですが、その後、自家用車の普及で鉄道のシェアは下がり続けて、ここ30年は30%あたりを行ったり来たり… やっぱり鉄道は衰退しちゃったんですね… と思うかもしれませんが、旅客人員は順調に増え続けていますし、シェアも横ばいをキープしています。ということで、海外の鉄道と比較してどうすごいか?ということを紹介したいと思います。

“遅れ”に対する考え方
みなさんは、駅の構内放送で「5分遅れ」と聞いたら、どう感じるでしょう? 「それくらいならゆっくり待つよ」という方もいるかもしれませんし、「5分も遅れてるのか!」といらいらしてしまう方もいるかもしれません。これが10分なら、さすがに多くの人が気になるんじゃないでしょうか。でも、ほとんどの列車は定刻通り・時刻表通りにやってきて、出発していきます。
しかし、フランス国鉄が世界に誇る“TGV”(フランス版新幹線って言われてるものですね)、なんと「15分以上」ではじめて“遅れ”として扱われます。なので、さきほどの「5分」や「10分」は遅れではないんですね。では、日本の新幹線はどうでしょう? みなさんが目にする時刻表は「12:14」のように1分刻みですね。でも、驚くことなかれ、運転士さんは「15秒単位」の時刻表をもとに運転しています。鉄道会社によりますが、「10秒単位」で決まっているところもあります。「12:14:15」というように。「12:14:30」だと“遅れ”。運転士さんたちのご苦労がよくわかりますね。私にはムリかな…
日本の鉄道が初めて開通したのが1872年、鉄道が発明されたイギリスから輸入されました。それから約150年、進化を続けた日本の鉄道は“運行システム”を昇華させ、人々の生活と国の発展を支えてきました。先進国のヨーロッパでも、日本並みの定刻運行は不可能なようで、数時間の遅れや運行打切りもよくあるとか。日本人はちゃんとし過ぎているんでしょうね。しかし、この“定刻”で運行することされていることこそが、日本で鉄道がシェアを落とさない理由の一つなのかもしれません。

今回は、日本の鉄道のすごさを“遅れ”の観点からお話しました。次回は“輸送人員”“鉄道事業”の角度からもお話したいと思います。

では、また!