日本の重点産業分野における大規模支援策:経済産業省・総務省・国土交通省・農林水産省
日本の重点産業分野における大規模支援策

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I. エグゼクティブサマリー
本報告書は、日本の主要省庁である経済産業省、総務省、国土交通省、農林水産省が主導する、新規に注力している産業分野および関連する大規模支援策(補助金、助成金等、支援見込み額1億円以上)について分析するものです。日本政府は現在、グリーン・トランスフォーメーション(GX)、デジタル・トランスフォーメーション(DX)、先端技術開発、地方創生を国家戦略の柱と位置づけ、これらの分野に巨額の財政支援を投入しています。
主要な分析結果は以下の通りです。
- 経済産業省は、GX分野において2兆円規模のグリーンイノベーション基金やGX経済移行債を活用したプロジェクトを推進し、再生可能エネルギー、水素、次世代炉、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)、先端半導体、AI、蓄電池、バイオ医薬品等の戦略的技術開発と社会実装を強力に支援しています。また、中堅・中小企業による大規模成長投資への支援も重点項目です。
- 総務省は、Beyond 5Gを含む次世代情報通信技術の研究開発(年間数十億円規模のプロジェクトも存在)や、ローカル5G、AI、自動運転等の実証を含む地域DX推進パッケージ事業(プロジェクト上限1億円超のメニュー多数)を通じて、全国的なICTインフラの高度化と地域課題解決を支援しています。
- 国土交通省は、インフラ分野のDX(i-Construction、BIM/CIM)、スマートシティ構築(MaaS関連プロジェクト上限1億円)、物流DX・GX(プロジェクト上限2億円超)、建築物・交通の脱炭素化(ZEB/ZEH、ゼロエミッション船開発に数十億円規模のプログラム)、防災・減災DXに重点を置いています。
- 農林水産省は、スマート農業・林業・水産業の推進、食料システムのグリーン化、農業構造改革(年間200億円超の事業も存在)に大規模な予算を投じ、第一次産業の近代化と持続可能性向上を目指しています。
- 省庁横断的取り組みとして、20兆円規模のGX経済移行債や、デジタル田園都市国家構想交付金(上限6億円のタイプも存在)が、複数の省庁にまたがるプロジェクトの重要な資金源となっています。
これらの支援策は、対象事業への直接的な財政支援のみならず、研究開発から社会実装、インフラ整備、人材育成に至るまで、多岐にわたるフェーズをカバーしています。1億円以上という大規模な資金が動くこれらのプログラムは、関連企業や研究機関にとって、日本の新たな成長分野で主導的な役割を果たすための大きな機会を提供するものです。本報告書が、これらの機会を捉えるための一助となれば幸いです。
II. 省庁別大規模支援策(1億円以上)
A. 経済産業省
経済産業省は、日本の産業政策を主導し、将来の成長エンジンとなる分野への大規模な投資を牽引しています。特にGX、DX、戦略的技術分野において、研究開発から社会実装、国内製造基盤の確立までを視野に入れた、1億円を大幅に超える大型支援策を多数展開しています。
1. グリーン・トランスフォーメーション(GX)および脱炭素化への取り組み
経済産業省は、「2050年カーボンニュートラル」達成に向けた「グリーン成長戦略」を策定し、GX分野への集中的な投資を行っています。
- a. グリーンイノベーション(GI)基金事業
- 概要・背景: GI基金は、カーボンニュートラル目標達成のため、企業等の野心的な研究開発・実証・社会実装の取り組みを最長10年間にわたり継続支援する目的で設立された、総額2兆7,564億円(2024年11月現在)の巨大基金です 。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が多くのプロジェクトを管理し、個々のプロジェクト規模は平均200億円以上とされています 。支援対象は、洋上風力、水素・アンモニア、次世代熱エネルギー、CO2リサイクルなど14の重点分野に及びます 。
- 1億円以上の支援が見込まれる具体的なGI基金プロジェクト例(NEDO支援規模):
- 洋上風力発電の低コスト化: プロジェクト総予算1,195億円 。うち、浮体式洋上風力共通基盤開発サブプロジェクトは約40億円 。
- 大規模水素サプライチェーンの構築: プロジェクト総支援規模約2.2兆円 。MCHサプライチェーン実証支援約6,300億円、液化水素サプライチェーン商用化実証支援(複数社合計)約2.2兆円 。水素発電実証プロジェクトも各70億円~140億円規模の支援 。
- 次世代型太陽電池の開発: GI基金事業全体の上限額648億円 。うち基盤技術開発約155億円 、実証事業上限378億円 。
- CO2等を用いた燃料製造技術開発: NEDO支援総額1,145億円 。うち合成燃料研究開発支援約576億円、SAF製造研究開発支援約292億円 。
- 次世代航空機の開発: NEDO支援規模306億円 。
- 戦略的意義(産業創出): GI基金の2兆円を超える規模と10年という長期支援は、既存産業の改善に留まらず、全く新しいグリーン産業と強靭なサプライチェーンをゼロから構築しようとする国家戦略の表れです。これは、将来のGX技術分野で日本が主導的地位を確立するための意図的な産業政策と言えます。
- 戦略的意義(社会実装重視): GI基金は「社会実装までを担える、企業等の収益事業を行う者を主な実施主体」としており 、研究成果を商業的に成功させ、市場を創造することへの強い期待が込められています。これは、単なる研究助成ではなく、経済的成果を伴う産業化への明確な道筋を示しています。
- 公募情報: GI基金事業の公募はNEDOのウェブサイトで発表されます 。例えば「次世代航空機の開発プロジェクト」や「洋上風力発電の低コスト化」などで公募実績があります。
- b. 排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業
- 概要・背景: 鉄鋼、化学、紙パルプ、セメントといったCO2排出削減が困難な(Hard-to-Abate)産業を対象に、製造プロセスの転換や自家発電設備の燃料転換等への設備投資を補助する事業です 。令和7年度の執行団体向け予算上限は4,247億円 、令和6年度公募時の事業I(鉄鋼)と事業II(化学等)の合計予算は複数年度で4,844億円でした 。
- 支援規模: プロセス転換・燃料転換は通常1/3補助、構造転換の場合は最大1/2補助となります 。プラント全体の改修など、個々のプロジェクトは1億円を大幅に超えることが想定されます。
- 戦略的意義(重要産業の脱炭素化): 本事業は、日本のカーボンニュートラル目標達成に不可欠な、最も困難な産業排出への対策に直接取り組むものです。巨額の予算は、これらのコストのかかる移行に対して政府が積極的に共同投資する意思を示しています。
- 公募情報: 令和6年度の事業I(鉄鋼)および事業II(化学等)の公募は2024年10月に終了しました 。令和7年度の「補助事業者(執行団体)」の公募は2025年2月に行われました 。企業向け公募は、採択された執行団体から今後発表されるため、注意が必要です。
- c. 再生可能エネルギー導入拡大に向けた系統用蓄電池等の電力貯蔵システム導入支援事業
- 概要・背景: 再生可能エネルギーの導入拡大に伴う電力系統の安定化を目的として、系統用蓄電池や水電解装置等の導入を支援します 。近年の要求額は85億円から310億円へと大幅に増額されています 。本事業はGX経済移行債の使途にも挙げられています 。
- 支援規模: 系統用蓄電池の性質上、個々のプロジェクトは大規模であり、1億円を優に超えます。
- 戦略的意義(再エネ導入の基盤整備): 大規模蓄電池は、太陽光や風力といった変動性再エネの導入拡大に不可欠なインフラ投資です。この支援は、日本のエネルギー転換における重要なボトルネック解消へのコミットメントを示しています。
- d. 次世代革新炉の研究開発支援事業
- 概要・背景: 高速炉や高温ガス炉といった次世代革新炉の研究開発を推進しています 。近年の要求額は563億円から829億円に増加しています 。これもGX経済移行債の対象事業です 。
- 支援規模: これらは本質的に1億円を超える大規模かつ長期的な研究開発プロジェクトです。
- 戦略的意義(エネルギー安全保障と将来技術): 国民的議論はあるものの、政府は将来の原子力技術に多額の投資を行っており、これは長期的なエネルギー安全保障と脱炭素化目標達成のためと考えられます。高温ガス炉は水素製造との関連も指摘されています 。
- e. 先進的CCS(二酸化炭素回収・貯留)支援及び国内外での貯留適地調査事業
- 概要・背景: 先進的なCCSプロジェクトやCO2貯留適地の調査を支援します 。近年の要求額は12億円から112億円へと大幅に増加しています 。
- 支援規模: CCSプロジェクトは資本集約的であり、個別の支援額は1億円を超える可能性が高いです。
- 戦略的意義(残余排出物への対応): CCUSは、完全な排除が困難な排出源からのCO2を回収する補完的技術として位置づけられています。予算の急増は、その重要性が高まっていることを示唆しています。
2. デジタル・トランスフォーメーション(DX)および先端技術
- a. 先端半導体の開発・製造支援
- 概要・背景: 先端半導体の生産拠点整備や次世代半導体の研究開発支援を通じて、国内半導体産業の強化を目指しています 。これはサプライチェーンにおける「ミッシングピース」の補完や経済安全保障の観点からも重視されています 。GX経済移行債の使途にも「次世代エッジAI半導体研究開発事業」や「GXを実現する半導体の製造サプライチェーン強靱化支援事業」が含まれています 。
- 支援規模: 半導体の研究開発や製造拠点(ファブ)の建設には莫大な費用がかかるため、支援額は1億円をはるかに超える規模となります。
- 戦略的意義(経済安全保障と基幹産業): 世界的な半導体不足や地政学的競争を背景に、国内の半導体能力再構築とサプライチェーン確保は国家の最優先事項の一つです。これはあらゆる現代産業の基盤となる技術です。
- b. AI開発・利活用支援
- 概要・背景: AI向けの高性能計算資源の研究開発や、「モビリティDX」等を推進しています 。GX経済移行債の使途には「AI基盤モデル及び先端半導体関連技術開発事業等」も含まれています 。
- 支援規模: 特に基盤モデル開発や専用ハードウェア開発は高コストであり、関連プロジェクトは1億円の基準を満たす可能性が高いです。
- 戦略的意義(未来産業の基盤): AIは基盤技術であり、この分野への支援は、日本が様々なAI駆動型産業で競争力を持つための計算インフラとコア技術の構築を目指すものです。
3. 次世代モビリティおよび自動車分野
- a. 電気自動車(EV)購入・インフラ整備支援
- 概要・背景: 「多様な道筋」(マルチパスウェイ)戦略の一環として、EVの車両購入や充電インフラ整備を支援しています 。これはGX経済移行債の対象でもあります 。環境省も関連事業を実施しています 。
- 支援規模: 個々の車両補助は少額ですが、大規模な充電ネットワーク整備や大口フリートのEV転換補助などは1億円を超える可能性があります。「商用車の電動化促進事業」の予算は409億円です 。
- 戦略的意義(自動車産業の多角的転換): 日本はEVだけに注力するのではなく、自動車の多様な脱炭素化経路を支援しています。インフラ支援はEV普及の障壁克服に不可欠です。
- b. 蓄電池製造・次世代蓄電池研究開発支援
- 概要・背景: 自動車産業やエネルギー貯蔵の競争力に不可欠な蓄電池の製造基盤確立と次世代電池の実用化を支援しています 。GX経済移行債では「蓄電池の製造サプライチェーン強靱化支援事業」が重点項目です 。
- 支援規模: 蓄電池工場の建設や先端研究開発は非常に高コストであり、支援額は1億円を大幅に超えることが見込まれます。
- 戦略的意義(電動化のキーコンポーネント確保): 蓄電池はEVや系統用貯蔵システムの核心部品です。国内製造能力と研究開発でのリーダーシップは、電動化社会における経済安全保障と産業力にとって極めて重要です。
4. バイオ産業および先端医療
- a. バイオ医薬品開発製造拠点(CDMO)整備・増強支援
- 概要・背景: 再生医療・細胞・遺伝子治療分野を含むバイオ医薬品の受託開発製造拠点(CDMO)の整備・増強支援のあり方を検討しています 。
- 支援規模: バイオ製造施設の新設や大幅な増強は数十億円規模の事業となるため、支援も大規模になることが予想されます。
- 戦略的意義(国内バイオ医薬品生産能力の構築): 先端治療薬の国内生産能力を強化し、国際的なビジネス誘致も視野に入れた強固なエコシステムの形成を目指しています。
5. 事業者向け大規模成長投資支援
- a. 中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金
- 概要・背景: 地域経済を支える中堅・中小企業が、人手不足等の課題に対応し成長を目指すための大規模投資(最低投資額10億円)を促進し、地方の持続的な賃上げ実現を目的としています 。
- 支援規模: 複数年度で総額3,000億円の予算が組まれ、1プロジェクトあたりの補助上限額は50億円(補助率1/3以内)です 。これは明確に1億円以上の支援規模です。
- 対象分野・活動: 成長や生産性向上を目指す中堅・中小企業の大規模投資が広く対象となりますが、第一次産業の生産自体は対象外です 。
- 戦略的意義(中小企業の変革と賃金上昇の促進): 本補助金は、中堅・中小企業による大規模な設備投資と、国家目標である賃金上昇を直接結びつける重要なプログラムです。10億円という高い最低投資額は、大幅な拡大や変革を遂げる意欲のある企業を対象としていることを示唆しています。
- 公募情報: 第3次公募は2025年4月28日に終了しました。今後の公募については専用ウェブサイトで確認が必要です 。申請はjGrantsを利用し、GビズIDプライムアカウントが必須です 。
表1:経済産業省の主要大規模支援策(支援見込み額1億円以上)
重点分野・領域 | プログラム・事業名 | 支援規模(億円) | 主要目的・対象活動 | 関連資料例 |
---|---|---|---|---|
GX(全般) | グリーンイノベーション基金事業 | プロジェクト毎に数百億円規模(基金総額2.75兆円) | 14重点分野における研究開発・社会実装 | |
GX(鉄鋼・化学等) | 排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業 | R7執行団体予算上限4,247億円、R6公募時総予算4,844億円(複数年度) | 製造プロセス転換、燃料転換 | |
GX(再エネ) | 再生可能エネルギー導入拡大に向けた系統用蓄電池等の電力貯蔵システム導入支援事業 | 要求額310億円(全体) | 系統用蓄電池、水電解装置導入 | |
GX(原子力) | 次世代革新炉の研究開発支援事業 | 要求額829億円(全体) | 高速炉・高温ガス炉等の開発 | |
GX(CCUS) | 先進的CCS支援及び国内外での貯留適地調査事業 | 要求額112億円(全体) | CCSプロジェクト、CO2貯留適地調査 | |
DX(半導体) | 先端半導体の開発・製造支援 | (個別プロジェクトによるが極めて大規模) | 生産拠点整備、次世代半導体研究開発 | |
DX(AI) | AI開発・利活用支援 | (個別プロジェクトによる) | 計算資源高効率化、モビリティDX | |
次世代モビリティ | 電気自動車(EV)購入・インフラ整備支援 | 商用車電動化事業409億円(全体) | 車両購入、充電インフラ整備 | |
次世代モビリティ | 蓄電池製造・次世代蓄電池研究開発支援 | (個別プロジェクトによるが大規模) | 製造基盤確立、次世代電池実用化 | |
バイオ産業 | バイオ医薬品開発製造拠点(CDMO)整備・増強支援 | (個別プロジェクトによるが大規模) | CDMO整備・増強 | |
中堅・中小企業支援 | 中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金 | 補助上限50億円/件(総額3,000億円) | 大規模設備投資、賃上げ、省力化 |
(注)上記表の支援規模は、プログラム全体の予算や個別プロジェクトの上限額等を示しており、実際の採択額は案件により異なります。
B. 総務省
総務省は、日本のICTインフラ開発と社会全体のデジタルトランスフォーメーション推進において中心的な役割を担っています。特に、地方の活性化と課題解決に向けたデジタル技術の活用(地域DX)や、将来の通信基盤となるBeyond 5G技術の研究開発に力を入れています。
1. 地域DXおよびICTインフラ開発
- a. 地域社会DX推進パッケージ事業
- 概要・背景: 本事業は、デジタル人材・体制の確保支援、AI・自動運転等の先進的ソリューションや先進無線システムの実証、地域の通信インフラ整備への補助等を総合的に行い、デジタル実装の好事例を創出し、全国での早期実用化を目指すものです 。
- 支援規模:
- 推進体制構築支援: 都道府県に対し上限1億円(過去採択県は上限5,000万円)。
- 先進無線タイプ(実証事業): 事業全体の予算約18億円、プロジェクト規模目安1,000万円~1億円 。
- AI検証タイプ(実証事業): 事業全体の予算約5億円、プロジェクト上限目安約1億円 。
- 自動運転レベル4検証タイプ(実証事業): 事業全体の予算約22億円、プロジェクト上限目安約2.5億円 。
- 地域デジタル基盤整備支援(補助事業): 事業全体の予算約8.5億円、個別プロジェクト上限なし(審査による)。
- 対象分野・活動: 地方公共団体、および民間企業を含むコンソーシアムが対象。地域課題解決のためのデジタルソリューション、ローカル5G、Wi-Fi HaLow等の先進無線技術、AI、自動運転技術の活用。
- 戦略的意義(包括的な地域DX支援): 本パッケージ事業は、計画策定から人材育成、最先端技術の実証、さらには大規模なインフラ補助まで、地域DX推進のための多角的な支援を提供しています。多様な支援規模と内容により、各地域のニーズや発展段階に応じた取り組みを後押しするものです。特に自動運転やインフラ整備では1億円を超える大規模支援が見込まれ、地域社会のデジタル化を一気通貫で支援する総務省の強い意志がうかがえます。
- 公募情報: 令和7年度の各事業タイプ(計画策定支援、実証事業、整備事業など)の公募が順次開始されており、それぞれ締切が異なります 。詳細は総務省ウェブサイトや関連ポータルで確認が必要です 。
- b. Beyond 5G研究開発促進事業
- 概要・背景: 総務省は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)を通じて、Beyond 5G(6G)技術の研究開発を強力に推進し、将来の移動通信分野における日本の国際競争力維持を目指しています 。
- 支援規模:
- 戦略全体として5年間で1,000億円超の研究開発投資を目指しています 。
- NICTが公募する「Beyond 5G機能実現型プログラム 基幹課題」では、個別の研究開発テーマに対し年間数十億円規模の予算がつくことがあります(例:年間40億円、年間33億円、年間47億円)。
- 「Beyond 5G機能実現型プログラム 一般課題」では、1件あたり年間最大5億円の支援 。
- 「Beyond 5G国際共同研究型プログラム」および「Beyond 5Gシーズ創出型プログラム」では、1件あたり年間最大1億円の支援 。
- 「電波有効利用型」の研究開発課題においても、年間10億円や23.4億円といった大規模な予算が組まれることがあります 。
- 対象分野・活動: 先進的な無線通信技術、Open RAN、V2X(車車間・路車間通信)、HAPS(高高度プラットフォーム)通信技術等の研究開発。主にICT分野の研究機関、大学、企業が対象。
- 戦略的意義(将来の通信リーダーシップ確保): Beyond 5Gは、IoTや自動運転など、将来の社会インフラを支える上で不可欠な技術です。総務省による多額かつ多様な研究開発資金の投入は、日本が次世代通信技術のコア技術を開発し、国際標準化に貢献することで、技術的主権と競争力を確保することを目的としています。
- 公募情報: 通常、NICTの委託研究公募ページで発表されます。例えば、2022年4月には「基幹課題」や「一般課題」の公募が 、2023年5月には「電波有効利用型」の公募が行われました 。関心のある組織はNICTの公募情報を注視する必要があります。
表2:総務省の主要大規模支援策(支援見込み額1億円以上)
重点分野・領域 | プログラム・事業名 | 支援規模(億円) | 主要目的・対象活動 | 関連資料例 |
---|---|---|---|---|
地域DX | 地域社会DX推進パッケージ事業(推進体制構築支援) | 上限1億円/都道府県 | 地域DX推進体制の構築 | |
地域DX | 地域社会DX推進パッケージ事業(自動運転レベル4検証タイプ) | プロジェクト上限約2.5億円(事業全体予算約22億円) | 自動運転レベル4実証 | |
地域DX | 地域社会DX推進パッケージ事業(地域デジタル基盤整備支援) | プロジェクト上限なし(審査による、事業全体予算約8.5億円) | ローカル5G/LPWA等通信インフラ整備 | |
Beyond 5G | Beyond 5G機能実現型プログラム(基幹課題) | 年間数十億円/テーマ例あり | Beyond 5Gの基幹技術開発 | |
Beyond 5G | Beyond 5G機能実現型プログラム(一般課題) | 上限5億円/年・件 | Beyond 5Gの要素技術開発 | |
Beyond 5G | Beyond 5G研究開発促進事業(電波有効利用型) | 年間10億~23.4億円/テーマ例あり | 電波有効利用技術開発 |
(注)上記表の支援規模は、プログラム全体の予算や個別プロジェクトの上限額等を示しており、実際の採択額は案件により異なります。
C. 国土交通省
国土交通省は、日本の国土開発、インフラ整備、交通システム、都市計画に関する大規模プロジェクトを管轄しており、DX、GX、防災・減災といった現代的課題への対応に多額の予算を投じています。その多くは、1億円を大幅に超える支援規模となります。
1. インフラDXおよびスマートコンストラクション(i-Construction、BIM/CIM)
- 概要・背景: 国土交通省は、建設生産プロセスの効率化と生産性向上を目指し、「i-Construction」やBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)の導入を強力に推進しています 。これらの取り組みは「インフラ分野のDXアクションプラン」に基づいて進められています。
- 建築GX・DX推進事業: BIM加速化事業の後継として、建築物のLCCO2削減(GX)と建築BIMの普及による生産性向上(DX)を一体的に支援する事業です 。令和7年度予算は65億円が計上されています 。支援対象にはBIMソフトウェア導入費、コーディネーター・モデラー人件費等が含まれます 。LCA算定支援は最大500万円(CO2原単位算定含む場合は900万円)、BIM活用支援はプロジェクト規模に応じて最大5,500万円の補助事例があります 。
- インフラ老朽化対策等による持続可能なインフラメンテナンスの実現: 令和7年度予算7,889億円(令和6年度補正含め合計9,448億円)。この巨額予算には、維持管理効率化のためのDX技術導入支援が含まれると考えられます。
- 「インフラ分野のDXアクションプラン」の推進: 令和7年度予算要求額79億円 。
- SBIR建設技術研究開発助成制度: 建設技術分野のスタートアップ等による研究開発を支援します 。個別の支援額は明記されていませんが、革新的技術開発を促進するものです。
- 戦略的意義(建設産業の構造変革): 国土交通省によるBIM/CIMおよびi-Constructionの推進は、単なる技術導入に留まらず、公共事業や建設業界全体のプロセスを根本から変革しようとする動きです。建築GX・DX推進事業の65億円という予算規模は、この変革への強い意志を示しており、技術提供企業や新基準に対応する建設会社にとって大きなビジネスチャンスとなります。
2. スマートシティおよび次世代都市開発
- 概要・背景: 国土交通省は、他省庁とも連携し、都市課題解決のためのデジタル技術実装を支援するスマートシティプロジェクトを推進しています 。
- 日本版MaaS推進・支援事業(「交通空白」解消等リ・デザイン全面展開プロジェクト内): MaaS(Mobility as a Service)の取り組みを支援し、複数交通事業者の連携によるシームレスな移動体験の提供を目指します。関連予算326億円(配分額)。プロジェクトごとの補助上限額は地域類型により異なり、最大1億円です 。令和7年度の合同審査対象事業です 。
- スマートシティ実装化支援事業: 過去の採択事例があります。「令和7年度スマートシティ関連事業(合同審査の対象事業)の概要」では、関連事業に「数億円」規模の予算や、MaaS事業のように大規模な予算枠(326億円)の一部として計上されるものがあります。
- スマートシティの社会実装の加速: 3D都市モデル(Project PLATEAU)整備等を含め、令和7年度予算29億円 。
- 戦略的意義(統合的都市ソリューション): スマートシティ関連の支援は、交通、エネルギー、防災など、分野横断的なデータ連携とサービス統合を重視しています。特に日本版MaaS推進・支援事業は、1プロジェクトあたり最大1億円という支援上限額からも、スマートシティ構想内での統合型モビリティソリューションに対する大規模な支援意欲がうかがえます。
3. 物流革新(DXおよび脱炭素化)
- 概要・背景: 物流分野の効率化と環境負荷低減のため、DXとGXを推進しています 。
- 物流脱炭素化促進事業: 物流施設等における水素および再エネ関連設備の導入を支援。水素関連は補助上限2.5億円、再エネ関連は上限2億円 。令和7年度の公募が2025年5月に開始されました 。
- 物流施設におけるDX推進実証事業費補助金: DX機器導入に最大1億1,500万円、システム構築・連携に最大2,500万円を補助 。
- 港湾におけるDXの推進: サイバーポート推進等を含め、令和7年度予算要求額12億円(非公共事業費分)。港湾物流効率化の予算は全体で35億2,500万円を要求(令和7年度)。
- モーダルシフト等推進事業: 令和7年度予算要求額5億9,900万円 。大規模な取り組みであれば1億円を超える可能性があります。
- 戦略的意義(物流システムの構造課題への対応): 日本の物流業界は人手不足と脱炭素化の圧力に直面しています。国土交通省によるDX(自動化、データ連携)とGX(物流施設への水素・再エネ導入)への多額の資金提供は、これらの構造的課題への取り組みを本格化させるものです。
4. 建築物・交通の脱炭素化(ZEB/ZEH、ゼロエミッション船)
- 概要・背景: 環境省や経済産業省とも連携し、建築物(ZEB/ZEH)や交通(ゼロエミッション船)の脱炭素化を推進しています。
- 断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業: 経済産業省・環境省連携。令和5年度補正予算1,350億円 。
- 業務用建築物の脱炭素改修加速化支援事業: 環境省・経済産業省連携。令和5年度補正予算111.75億円 。令和7年度予算案12億円、令和6年度補正111.75億円 。
- ゼロエミッション船等の建造促進事業: 環境省連携。令和6年度予算94億円、5年間で総額600億円の国庫債務負担 。令和7年度から10年度の予算額65億円(初年度5億円)という記載もあります 。GX経済移行債の対象でもあります 。
- 自動運航船の実現: 「インフラ分野のDXアクションプラン」の一環として令和7年度予算要求額22億円 。また、「海事産業集約連携促進技術開発支援事業」も自動運航船技術を対象としています 。
- 戦略的意義(包括的な脱炭素アプローチ): 国土交通省は、所管する主要排出部門である建築物と海運において、他省庁とも協力し、巨額の予算を投じて脱炭素化に取り組んでおり、政府全体の包括的なアプローチを示しています。
5. 防災・減災、国土強靱化とDX
- 概要・背景: DXや先端技術を活用した防災・減災、国土強靱化は国土交通省の最重要課題の一つです 。
- インフラ老朽化対策等による持続可能なインフラメンテナンスの実現: 令和7年度予算7,889億円 。このうち相当部分が防災・減災に資するものであり、DX活用も含まれます。
- 防災・減災、国土強靱化の推進: 令和7年度の公共事業関係費に大規模な予算が計上されています 。内閣府の関連予算も令和7年度約146億円(うち防災DX加速化関連経費あり)。
- 社会資本整備総合交付金および防災・安全交付金: 地方公共団体によるインフラ整備(防災・DX含む)を支援する大規模交付金です 。防災・安全交付金の要求額は1兆404億円です 。
- 火山研究人材育成コンソーシアム構築等: 文部科学省の事業ですが、火山観測体制構築等に1億円の予算が計上されており、国土交通省の防災範囲と関連します 。
- 戦略的意義(先進技術による国土強靱化): 自然災害の頻発・激甚化に対応するため、国土交通省は莫大な投資を継続しています。その中で、予測、予防、対応の各段階で、より先進的でデータ駆動型(DX)のアプローチへの移行が進められています。
表3:国土交通省の主要大規模支援策(支援見込み額1億円以上)
重点分野・領域 | プログラム・事業名 | 支援規模(億円) | 主要目的・対象活動 | 関連資料例 |
---|---|---|---|---|
インフラDX | 建築GX・DX推進事業 | R7予算65億円(全体) | 建築BIM導入、LCCO2削減 | |
インフラDX | 「インフラ分野のDXアクションプラン」の推進 | R7要求額79億円(全体) | インフラ全般のDX推進 | |
スマートシティ | 日本版MaaS推進・支援事業 | 上限1億円/件(関連予算326億円) | MaaSアプリ開発、データ連携 | |
スマートシティ | スマートシティの社会実装の加速 | R7予算29億円(全体) | 3D都市モデル整備等 | |
物流DX/GX | 物流脱炭素化促進事業 | 上限2.5億円(水素)、上限2億円(再エネ)/件 | 物流施設の水素・再エネ設備導入 | |
物流DX/GX | 物流施設におけるDX推進実証事業費補助金 | 上限1.15億円(DX機器)/件 | 物流施設の自動化・機械化 | |
物流DX/GX | 港湾におけるDXの推進 | R7要求額12億円(非公共分) | サイバーポート推進等 | |
建築物脱炭素化 | 業務用建築物の脱炭素改修加速化支援事業 | R7予算案12億円、R6補正111.75億円 | 既存業務用ビルの断熱改修、高効率設備導入 | |
交通脱炭素化 | ゼロエミッション船等の建造促進事業 | R7-10予算65億円(R6予算94億円、5年総額600億円の別枠もあり) | ゼロエミッション船建造に必要な生産設備整備 | |
交通DX/GX | 自動運航船の実現 | R7要求額22億円(アクションプラン内) | 自動運航船技術開発・実用化 | |
防災・減災DX | インフラ老朽化対策等 | R7予算7,889億円(全体) | インフラ維持管理、防災・減災 | |
防災・減災DX | 防災・安全交付金 | R7要求額1兆404億円(全体) | 地方公共団体の防災・安全対策 |
(注)上記表の支援規模は、プログラム全体の予算や個別プロジェクトの上限額等を示しており、実際の採択額は案件により異なります。
D. 農林水産省
農林水産省は、日本の第一次産業の近代化、食料安全保障の強化、持続可能な農林水産業の推進、そして農山漁村の活性化を主要な政策目標として掲げています。これらの目標達成のため、スマート技術の導入(DX)や環境負荷低減(GX)に資する大規模な支援策を展開しています。
1. スマート農業・林業・水産業(第一次産業のDX)
- a. スマート農業総合推進対策事業
- 概要・背景: ロボット技術、AI、IoTなどを活用したスマート農業技術の開発・実証・導入を総合的に推進し、生産性向上、省力化、持続可能性強化を目指す中核的事業です 。
- 支援規模:
- 事業全体として大きな予算が割かれており、例えば「スマート農業総合推進対策事業」として55億円 、「スマート水産業の推進」として29億円 といった予算額が示されています。
- 「スマート農業技術活用促進集中支援」の令和7年度概算要求額は8億円 ですが、その中の「広域型サービス支援タイプ」では、スマート農業機械等の導入に対して上限5,000万円(下限原則500万円)、関連経費と合わせて最大5,000万円の支援が受けられる可能性があります 。これは、大規模な地域共同利用や広域サービス展開を想定した場合、1億円を超えるプロジェクトとなる潜在性を示唆します(例えば、複数の高額機械導入や広域システム構築など)。
- 「スマート農業技術の開発・供給に関する事業」は令和6年度補正予算で公募されており 、研究開発プロジェクトも大規模になる可能性があります。
- 対象分野・活動: 農業者、農業協同組合、農業支援サービス事業者、技術開発企業など。スマート農業技術の研究開発、実証実験、生産現場への導入、関連サービスの開発・提供。
- 戦略的意義(第一次産業の近代化): 農業従事者の高齢化と人手不足が深刻化する中、農林水産省はDXを通じて第一次産業の構造的課題解決と競争力強化を図っています。「スマート農業技術活用促進法」も制定され、法制度面からの後押しも行われています。
- 公募情報: 農林水産省ウェブサイトやNARO(農研機構)等の関連機関から公募情報が発表されます 。例えば、「スマート農業・農業支援サービス事業導入総合サポート緊急対策事業」は令和7年4月に第3回公募が行われました 。
2. 持続可能な食料システムと農業分野のグリーン・トランスフォーメーション(GX)
- a. みどりの食料システム戦略関連施策
- 概要・背景: 化学肥料・農薬使用量の削減、有機農業の拡大、温室効果ガス排出削減などを通じ、持続可能な食料システムの構築を目指す戦略です 。
- 支援規模: 戦略自体は広範な目標を掲げており(例:2050年までに有機農業取組面積割合25% )、関連する様々な事業を通じて資金が投入されます。
- 有機農業推進総合対策事業: 令和7年度の公募が発表されており、人材育成、有機加工食品の国産原料利用拡大、国産有機農産物の需要喚起等を支援します 。個々のプロジェクト規模は明示されていませんが、産地全体の取り組みや大規模なサプライチェーン構築などは1億円を超える可能性があります。
- 戦略的意義(包括的な持続可能性の追求): 「みどりの食料システム戦略」は、環境負荷低減と生産性向上を両立させるための包括的なビジョンです。この戦略目標達成のため、構造改革支援やスマート農業支援など、他の大規模支援策とも連携して資金が投入されると考えられます。
3. 農業構造改革と競争力強化
- a. 新基本法実装・農業構造転換支援事業(旧:強い農業づくり総合支援交付金)
- 概要・背景: 生産から流通に至るまでの課題解決、産地競争力強化、みどりの食料システム戦略の推進等を目的とし、共同利用施設等の整備・再編合理化、卸売市場施設の整備等を支援します 。
- 支援規模: 令和7年度の概算要求額は202億円 。施設整備に対する個別プロジェクト支援は年間最大20億円(3年間)に達する場合があります 。また、令和7年度予算では「新基本計画実装・農業構造転換支援事業」に400億円、「強い農業づくり総合支援交付金」に120億円が計上されたとの情報もあります 。
- 対象分野・活動: 農業生産者、農業協同組合、食品流通事業者など。生産施設、集出荷施設、加工施設、卸売市場等のインフラ整備、技術導入、人材育成。
- 戦略的意義(大規模な構造改革の推進): 本事業は、農林水産省による農業インフラと生産・流通システム近代化のための主要な資金供給手段です。年間最大20億円という高いプロジェクト上限額は、1億円を大幅に超える資本集約的な大規模プロジェクトを明確に支援対象としていることを示しています。
- 公募情報: 農林水産省のウェブサイトで情報が公開されます 。申請は地方農政局等を通じて行われます。
- b. 新規就農者育成総合対策
- 概要・背景: 機械・施設導入支援、研修制度、誘致環境整備等を通じて新規就農者の増加を目指します 。
- 支援規模: 令和7年度の概算要求額は149億円 。機械・施設等導入支援は上限1,000万円(新規経営開始者は上限500万円)で、国が都道府県支援額の2倍を支援する形です 。個々の農業者への支援は1億円に満たないものの、「サポート体制の充実、誘致環境の整備、農業教育の高度化への支援」といった項目で、都道府県レベルでの大規模な研修施設整備や新規就農者向け団地開発など、複数の支援を組み合わせた地域一体の大型プロジェクトとして1億円を超える可能性があります。
- 戦略的意義(農業人口構造への対応): 農業従事者の高齢化が進む中、新規参入者の確保と育成は日本農業の将来にとって死活問題です。本対策は、そのための包括的な支援を提供するものです。
- c. 漁業構造改革総合対策事業
- 概要・背景: もうかる漁業・養殖業への転換を目指し、多目的漁船の導入、新たな操業・生産体制への転換、マーケットイン型養殖業の実証等を支援します 。
- 支援規模: 令和7年度の概算要求額は85億円 。「高性能漁船や大規模沖合養殖システムの導入」といった支援内容は、個々の投資額が1億円を超える大規模プロジェクトになり得ることを示唆しています。
- 戦略的意義(水産業の近代化): 農業と同様に、水産業も収益性向上と持続可能性確保のための近代化と構造改革が求められています。
- d. 浜の活力再生・成長促進交付金
- 概要・背景: 「浜プラン」を策定した漁村地域を対象に、共同利用施設の整備、デジタル技術活用、密漁対策、海業(うみぎょう)振興等による漁業所得向上を支援します 。
- 支援規模: 令和7年度の概算要求額は55億円 。支援内容には「水産業のスマート化の取り組みに必要な施設や機器の整備」や「種苗生産施設や養殖関連施設の整備」が含まれており、これらは大規模な施設整備を伴う場合1億円を超える可能性があります。
- 戦略的意義(漁村の地域包括的活性化): 本交付金は、経済、技術、環境といった側面を統合した漁村地域の包括的な発展計画を支援するものです。
表4:農林水産省の主要大規模支援策(支援見込み額1億円以上)
重点分野・領域 | プログラム・事業名 | 支援規模(億円) | 主要目的・対象活動 | 関連資料例 |
---|---|---|---|---|
農業DX | スマート農業総合推進対策事業(広域型サービス支援タイプ等) | 個別事業上限0.5億円(機械導入)、関連経費含め最大0.5億円の例あり。ただし、地域全体の大規模プロジェクトでは1億円超の可能性も。 | スマート農業機械導入、農業支援サービス広域展開 | |
農業構造改革 | 新基本法実装・農業構造転換支援事業 | R7要求額202億円(全体)。個別施設整備上限20億円/年×3年。400億円計上情報も。 | 共同利用施設整備・再編、卸売市場整備 | |
新規就農支援 | 新規就農者育成総合対策 | R7要求額149億円(全体)。個別支援は1億円未満だが、地域一体の大規模研修施設等は可能性あり。 | 機械・施設導入、研修、誘致環境整備 | |
水産業構造改革 | 漁業構造改革総合対策事業 | R7要求額85億円(全体)。高性能漁船・大規模養殖システム導入は1億円超の可能性。 | 高性能漁船導入、大規模養殖システム導入 | |
漁村活性化 | 浜の活力再生・成長促進交付金 | R7要求額55億円(全体)。スマート化施設・養殖施設整備は1億円超の可能性。 | 共同利用施設整備、スマート化、養殖施設整備 |
(注)上記表の支援規模は、プログラム全体の予算や個別プロジェクトの上限額等を示しており、実際の採択額は案件により異なります。
III. 主要省庁横断的大規模国家戦略(1億円以上)
省庁個別の施策に加え、国家戦略として複数の省庁にまたがる形で推進される大規模な資金供給イニシアティブが存在します。これらは、日本の産業構造や社会システムの変革を企図するものであり、極めて大きな予算規模と広範な影響力を持ちます。
A. GX経済移行債
- 概要・背景: 日本政府は、2050年のカーボンニュートラル達成と産業競争力強化・経済成長を同時に実現するため、今後10年間で150兆円を超える官民GX投資を掲げています。このうち、政府は20兆円規模の先行投資支援を「GX経済移行債」の発行を通じて行う計画です 。この財源は、将来導入される化石燃料賦課金や特定事業者負担金(カーボンプライシング)により2050年度までに償還される予定です 。このGX経済移行債は、既存の国債とは別に「クライメート・トランジション・ボンド」として発行されることもあります 。
- 主要投資分野(1億円以上の支援が見込まれる事業例): GX経済移行債は、特定の省庁の単一事業ではなく、複数の省庁が実施するGX関連の広範な事業の財源となります。経済産業省のウェブサイト には、令和4年度補正予算から令和7年度当初予算に至るまで、この財源を活用した多数の事業がリストアップされています。これらには以下のようなものが含まれます。
- 経済産業省主導:
- 排出削減困難産業のエネルギー・製造プロセス転換支援
- 系統用蓄電池導入支援
- 次期航空機開発、SAF製造供給体制構築
- ポスト5G情報通信システム基盤強化、次世代エッジAI半導体開発
- 水素サプライチェーン構築・拠点整備
- 次世代革新炉技術開発
- GX分野ディープテック・スタートアップ支援
- 蓄電池製造サプライチェーン強靱化
- グリーンイノベーション基金事業
- 国土交通省・環境省等連携(多くは経済産業省も関与):
- ゼロエミッション船建造促進
- 業務用建築物の脱炭素改修加速化
- 先進的資源循環投資促進
- ペロブスカイト太陽電池社会実装
- 特定地域脱炭素移行加速化交付金(例:自営線マイクログリッド)
- クリーンエネルギー自動車導入促進補助金
- 住宅の断熱改修支援
- 経済産業省主導:
- 支援規模: GX経済移行債全体の枠組みは20兆円と極めて大規模です。ここから資金供給を受ける個々の事業(例:グリーンイノベーション基金事業、排出削減困難産業支援事業など)も、それ自体が数百億円から数兆円規模の予算を持つものが多く、個別の採択プロジェクトが1億円を大幅に超えることは確実です。例えば、クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(令和4年度補正700億円)、住宅の断熱性能向上事業(令和4年度補正1,000億円)、重要物資サプライチェーン強靱化支援事業(4,839億円)といった具体的な予算額が示されています 。
- 戦略的意義(GXへの国家的な財政コミットメント): GX経済移行債は、単なる補助金プログラムではなく、日本のGX実現に向けた長期的な国家財政戦略の核心です。これにより、民間企業は予見可能性を持って大規模なGX投資に取り組みやすくなり、規制・制度改革と一体となった市場創造が期待されます。
- 公募情報: GX経済移行債を財源とする具体的な補助金・助成金は、経済産業省、国土交通省、環境省など、各事業を所管する省庁から個別に公募されます。
B. デジタル田園都市国家構想交付金
- 概要・背景: 内閣官房が主導するこの構想は、デジタル技術の活用を通じて地方の活性化、地域課題の解決、魅力向上を図り、都市部への一極集中を是正し、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会の実現を目指すものです 。様々なタイプの交付金が用意されています。
- 主要交付金タイプと支援規模(1億円以上の支援が見込まれるもの):
- デジタル実装タイプ(TYPE2/3、Society5.0推進タイプ等):
- TYPE2: 1事業あたり国費上限2億円(事業費ベース4億円)。
- TYPE3: 新規性の高いマイナンバーカード用途開拓等に資する事業。1事業あたり国費上限6億円(事業費ベース9億円)。
- Society5.0タイプ(地方創生推進タイプ内): 未来技術の実装に関する事業。1事業あたり国費上限3億円 。
- 令和3年度補正予算では、これらのタイプに200億円が計上されました 。ある公募回では、計531団体、843事業に対し、交付対象事業費ベースで379億円(国費200億円)が採択されています 。
- 地方創生拠点整備タイプ: 地方創生に資する施設整備を支援。地域再生計画に基づき、KPI設定やPDCAサイクルが求められます 。大規模な拠点整備プロジェクトは1億円を超える可能性があります。例えば、複数施設を組み合わせたプロジェクトでは、1施設あたり最大9,000万円で最大3施設まで組み合わせ可能なケースもあります 。
- 新しい地方経済・生活環境創生交付金: 地方創生交付金の予算倍増を目指すもので、国土交通省関係分だけでも令和7年度に598億円が計上されています 。
- デジタル実装タイプ(TYPE2/3、Society5.0推進タイプ等):
- 1億円以上の大型採択プロジェクト事例(事業概要は各資料参照):
- 福島県会津若松市「複数分野データ連携の促進による共助型スマートシティ推進事業」: デジタル行政手続き、環境価値の地域循環、商店街DX等を推進 。
- 北海道更別村「更別村SUPER VILLAGE構想」: 高齢者の生きがいづくりとスマート農業の実現 。
- 香川県高松市「フリーアドレスシティたかまつ(FACT)」: スーパーシティ構想 。
- 北海道千歳市「北海道における次世代半導体の生産に関する事業」: ラピダス社の次世代半導体研究開発プロジェクト関連のインフラ整備 。国家戦略的プロジェクトであり、投資規模は極めて大きい。
- 熊本県高森町「高森駅交流拠点施設整備事業」: 観光情報発信と地域住民交流拠点の整備 。
- 栃木県矢板市「『とちぎフットボールセンター』と同一敷地内にAIカメラ等の未来技術を備えた体育館と文化会館の複合施設を整備」 。
- 山形県鶴岡市「先端バイオを核としたサイエンスパークの拡充」: レンタルラボ増築によるバイオベンチャー集積 。
- 大分県「ホーバークラフトのターミナル等の発着施設を整備」: 大分空港アクセス改善 。
- 戦略的意義(デジタル技術による包括的な地方創生): 本構想は、単なる技術導入支援ではなく、デジタル技術を核として地方の経済・社会システム全体を再設計しようとするものです。多様な交付金タイプは、具体的な技術実装から広範な拠点整備まで、様々な地方創生の取り組みを支援可能にしています。特に半導体拠点整備のような国家戦略プロジェクトとの連携 は、地方創生と国の重要産業政策との戦略的整合性を示しています。TYPE3やSociety5.0タイプでは、上限6億円や3億円といった大規模な支援が用意されており、革新的な地方創生プロジェクトの実現を後押ししています。
- 公募情報: 内閣官房の地方創生推進事務局ウェブサイトで情報が公開されます 。各タイプについて定期的に公募が行われます。例えば、令和7年度の地方創生交付金(第2回募集)では約800億円が対象となる予定です 。
IV. 支援獲得に向けた戦略的推奨事項
これら大規模支援策を効果的に活用するためには、各省庁や国家戦略の目指す方向性を深く理解し、自社の強みやプロジェクトの意義を的確に訴求する戦略が不可欠です。
- 主要政策潮流の理解:
- GXとDXの重視: 多くの大規模補助金は、日本のGXおよびDXという国家目標達成に資する内容となっています 。プロジェクトがこれらのマクロ戦略にいかに貢献するかを明確にすることが重要です。
- 経済安全保障への貢献: 半導体、蓄電池、バイオ医薬品など、国内サプライチェーン強化や海外依存度低減に繋がる提案は、経済安全保障の観点からも評価される傾向にあります 。
- 地方創生への寄与: 特に地方での事業展開を伴う場合、デジタル田園都市国家構想 との連携や、地域雇用創出、地域経済活性化への具体的な貢献を示すことが求められます。
- 大規模投資基準への対応:
- 明確な成果目標とインパクト: 経済産業省の大規模成長投資補助金 のように、10億円以上の投資規模や賃上げといった具体的な成果を求めるプログラムがあります。測定可能なKPIを設定し、堅牢な事業計画を提示する必要があります。
- 長期ビジョンの提示: グリーンイノベーション基金 のように最長10年の支援を行うものも多く、短期的な成果だけでなく、長期的な戦略ビジョンと社会実装へのコミットメントを示すことが重要です。
- 連携体制の構築:
- 官民連携(PPP/PFI): 特に国土交通省のインフラ関連事業では、PPP/PFI方式が奨励されています 。
- 産学官連携: 研究開発要素の強いプロジェクト(経済産業省GI基金、農林水産省スマート農業関連等)では、産学官の連携体制が評価されます。
- 地域コンソーシアム: 総務省の地域DX推進パッケージ事業などでは、地方公共団体と民間企業等から成るコンソーシアム形式での申請が要件となるか、有利になる場合があります 。
- 申請プロセスの留意点:
- GビズIDプライムアカウント: 経済産業省をはじめ多くの省庁の電子申請システムで必須となります 。早期の取得が推奨されます。
- 公募期間の遵守: 大規模補助金の公募は競争が激しく、期間も限定されます。各省庁(経済産業省、総務省、国土交通省、農林水産省、NEDO、NICT、内閣官房等)のウェブサイトを定期的に確認し、締切を厳守する必要があります 。
- 詳細な事業計画書: 技術的実現可能性、経済的実行可能性、社会的インパクト、費用対効果など、厳格な審査基準に対応できる詳細な計画書が求められます。
- 事前相談・調整: 大規模プロジェクト、特にインフラ整備や先端研究開発においては、申請前に所管省庁や関連機関との事前相談・調整が有効な場合があります。一部のプログラムでは、事前着手届出制度も設けられています(例:経済産業省の排出削減困難産業支援 )。
- 省庁横断的イニシアティブの活用:
- GX経済移行債 やデジタル田園都市国家構想交付金 といった省庁横断的な資金供給の枠組みを理解し、個別省庁のプログラムがこれらの上位戦略とどう連携しているかを把握することが、より戦略的なアプローチに繋がります。
これらの大規模支援は、単なる資金提供ではなく、国が目指す社会変革への共同投資という側面が強いと言えます。したがって、申請者は自らのプロジェクトが国の戦略的優先事項(GX、DX、経済安全保障、地方創生等)にいかに合致し、貢献できるかを明確に示す必要があります。また、コンソーシアム形成や複数年度にわたる取り組みへの積極的な姿勢も、採択の可能性を高める上で重要となります。
V. 結論
本報告書で概観した通り、日本政府は経済産業省、総務省、国土交通省、農林水産省を中心に、GX、DX、先端技術開発、地方創生といった新たな重点産業分野に対し、1億円以上の大規模な財政支援を積極的に展開しています。これらの支援策は、国の将来的な経済競争力、社会システムの強靭化、そして持続可能な発展を実現するための戦略的投資と位置づけられます。
グリーンイノベーション基金(経済産業省)やGX経済移行債といった数兆円規模の資金枠は、脱炭素化に向けた革新的な技術開発からその社会実装までを長期的に支援するものであり、エネルギー、製造業、運輸など広範な分野が対象となります。また、半導体や次世代通信(Beyond 5G)、AIといった先端技術分野への重点投資は、日本の技術的優位性を確保し、経済安全保障を強化する狙いがあります。
国土交通省が推進するインフラDX、スマートシティ構想、物流革新、そして建築物や交通システムの脱炭素化は、国土の利便性向上と環境負荷低減を両立させるための大規模プロジェクトが中心です。防災・減災分野におけるDX活用も、国土強靱化の観点から引き続き重視されています。
農林水産省は、スマート農業技術の導入や農業構造改革を通じて、食料自給率の向上と持続可能な農林水産業の確立を目指しています。これらの分野でも、生産基盤の強化や新たなバリューチェーン構築に向けた大規模な支援が見込まれます。
総務省は、デジタル田園都市国家構想とも連携しつつ、ローカル5Gの普及や地域社会のDXを推進することで、都市部と地方の格差是正や新たな地域サービスの創出を後押ししています。
これらの大規模支援策は、単に既存事業の延長線上にあるものではなく、多くが新たな産業構造への転換や、未来志向の社会システム構築を企図しています。そのため、申請する事業者や研究機関には、革新性、社会実装への具体的な道筋、そして国や地域社会への広範な波及効果を示すことが求められます。
今後も、これらの重点分野に対する政府の強力なコミットメントは継続すると予想され、1億円を超える大規模な資金支援の機会は引き続き提供されるでしょう。これらの機会を捉え、日本の新たな成長と社会変革に貢献する意欲的なプロジェクトが、これらの支援制度を最大限に活用し、成功裏に推進されることが期待されます。
表5:主要省庁別・重点分野別 大規模支援策一覧(支援見込み額1億円以上)
省庁 | 重点戦略分野 | プログラム・事業名(例) | 個別プロジェクト支援規模/事業総額(目安) | 主要目的・対象活動 | 最新公募状況(判明分) | 関連資料例 |
---|---|---|---|---|---|---|
経済産業省 | GX(全般) | グリーンイノベーション基金事業 | PJ毎に数百億円~(基金総額2.75兆円) | 14重点分野の研究開発・社会実装 | NEDOにて随時公募 | – |
GX(産業) | 排出削減困難産業プロセス転換支援 | R7執行団体予算上限4,247億円 | 鉄鋼・化学等のプロセス転換 | R7執行団体公募済(25年2月) | ||
GX(再エネ) | 系統用蓄電池等導入支援 | 要求額310億円(事業全体) | 系統用蓄電池導入 | GX経済移行債対象 | ||
GX(原子力) | 次世代革新炉研究開発支援 | 要求額829億円(事業全体) | 高速炉・高温ガス炉開発 | GX経済移行債対象 | ||
DX(半導体) | 先端半導体開発・製造支援 | PJにより極めて大規模 | 生産拠点整備、次世代半導体R&D | GX経済移行債対象 | ||
中堅・中小企業 | 大規模成長投資補助金 | 上限50億円/件(総額3,000億円) | 大規模投資、賃上げ | R7第3次公募終了(25年4月) | ||
総務省 | 地域DX | 地域社会DX推進パッケージ事業 | PJタイプにより上限1億~2.5億円等 | 地域課題解決、インフラ整備 | R7各タイプ公募中または予定 | |
Beyond 5G | Beyond 5G研究開発促進事業 | PJタイプにより年間数億~数十億円/テーマ | Beyond 5G技術開発 | NICTにて随時公募 | ||
国土交通省 | インフラDX | 建築GX・DX推進事業 | R7予算65億円(事業全体) | BIM導入、LCCO2削減 | R7実施支援室2月開設予定 | |
スマートシティ | 日本版MaaS推進・支援事業 | 上限1億円/件(関連予算326億円) | MaaSアプリ開発、データ連携 | R7合同審査対象 | ||
物流GX/DX | 物流脱炭素化促進事業 | 上限2億~2.5億円/件 | 物流施設の水素・再エネ導入 | R7公募開始(25年5月) | ||
物流GX/DX | 物流施設DX推進実証事業費補助金 | 上限1.15億円(DX機器)/件 | 物流施設の自動化・機械化 | R6第3次公募終了(24年11月) | ||
交通GX | ゼロエミッション船等建造促進事業 | R7-10予算65億円(国庫債務600億円枠も有) | 生産設備整備 | R7第2次公募開始(25年4月) | ||
防災・減災DX | インフラ老朽化対策等 | R7予算7,889億円(事業全体) | 維持管理、防災・減災 | 交付金等で地方へ配分 | ||
農林水産省 | 農業構造改革 | 新基本法実装・農業構造転換支援事業 | R7要求額202億円(全体)、施設整備上限20億円/年 | 共同利用施設整備・再編 | 随時(地方農政局経由) | |
農業DX | スマート農業総合推進対策事業 | (広域型PJ等で1億円超の可能性) | スマート農業技術導入・実証 | R7各事業で公募あり | ||
水産業構造改革 | 漁業構造改革総合対策事業 | R7要求額85億円(全体) | 高性能漁船・大規模養殖導入 | 随時 | ||
省庁横断 | GX全般 | GX経済移行債活用事業 | 20兆円規模(10年間) | 各省庁のGX関連大規模事業 | 各省庁が個別公募 | |
地方創生DX | デジタル田園都市国家構想交付金 | TYPE3上限6億円/件、Society5.0型上限3億円/件 | デジタル技術活用による地方創生 | 内閣官房より随時公募 |
(注)上記表は代表的な事例であり、全ての支援策を網羅するものではありません。支援規模や公募状況は変動する可能性があるため、最新情報は各省庁の公式発表をご確認ください。