「周遊きっぷ」をご存知ですか? ~周遊きっぷの旅~

今回は真面目なお話ではなく、2013年(平成25年)までJRグループから発売されていた「周遊きっぷ」について、私の体験を交えてお話をしたいと思います。私がどれだけ鉄道が好きかおわかりいただけるかもとも思います。

みなさんは「周遊きっぷ」という乗車券をご存知でしょうか? 残念ながら2013年(平成25年)に販売を停止してしまった、JRグループが発売していた特別企画乗車券の商品名です。色々と決まりはあるんですが、簡単に言うと「ゆき」「ゾーン」「かえり」をセットで購入するというものです。日本各地、当時は10ほどのゾーンが設定されていたかと思います。そのゾーン内は特急も含めてJR線乗り放題、行きと帰りは好きな経路を決められて2割引で購入できるきっぷです。例えば、大阪から東京ゾーンまで新幹線で行って、帰りは上越線から日本海側に出て、北陸本線経由で大阪まで帰ってくる、という感じです。もちろん、東京ゾーン内は特急も快速もなにからなにまで乗り放題ですし、“東京”とはいいながら、北は東北本線の埼玉県大宮あたりから東は千葉県の成田、西は中央線の高尾、南は東海道線の大船、といった具合です。まだ周遊きっぷがあった頃は、よく利用して鉄道満喫の旅をしていたもんです。なんと言っても乗り放題だからお得感がすごい! 特急も躊躇なく乗れてワープ出来ますしね。北海道内乗り放題の“北海道ゾーン”は5日間で20,000円、九州内乗り放題の“九州ゾーン”は14,000円で同じく5日間の料金です。もちろん何度か利用した “北海道ゾーン”と“九州ゾーン”、その鉄道乗り放題の旅をどんな経路でどこに行ったか、これからお話していきたいと思います。鉄道は日々の通勤・通学程度…という方には「ふーん、なにが楽しいの? 観光はしなくて満足ですか?」と冷たい視線が突き刺さってきそうですが、この気持ちを100人に1人くらいはわかってくれるはず!と信じて書きたいと思います。では、まずは“北海道ゾーン”から。まだ新幹線が津軽海峡を渡る何年も前ですから、なくなってしまっている列車もあるかもしれませんが、出来る限りどんな列車だったかも説明させてもらいますね。

話がとても長くなりそうなので、次回、その旅の全貌をお話していきたいと思います。長編になる予感が…

では、また!

世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ⑥ ~トンネルドンとの戦いだ!~

前回は“分岐(ポイント)”についてお話しました。今回は予告のとおり“狭さ”についてお話してきます。

“狭さ”といっても、新幹線の車両のサイズのお話ではありません。実際に新幹線に乗るとわかりますが、2列と3列の計5列あります。JR東日本の東北新幹線や上越新幹線では3列+3列の6列というものもありました。一般的な在来線の特急は2列+2列の4列が一般的ですね。やはり新幹線の車両は広いということです。今回の“狭い”というのは、“トンネル”や“すれ違い”の狭さです。
日本の新幹線のトンネル断面積は約65㎡が基本です。車体の大きな新幹線も充分に通ることのできる大きさなのですが、海外の高速鉄道のスタンダードは100㎡以上なんです。なぜ、トンネルの断面積が大きな方がいいかと言うと、小さければ小さいほど列車がトンネルに入った時の空気抵抗が大きくなり、列車への衝撃や揺れが大きくなってしまうからです。また高速で進入した車両によってトンネル内の空気が反対側に押し出されて、反対側にある出口では“トンネルドン”と呼ばれる衝撃波が発生して、砲撃のような音が出ることもあります。すれ違いの距離も、“狭い”と言わざるをえません。すれ違い同士の線路の中心から線路の中心の距離は、日本の新幹線は標準では約4.3mですが、海外の高速鉄道では軽く5m以上あります。フランスの高速鉄道TGVでは10mという区間もあります。出来るだけ用地買収を減らし、建設費を抑えたい日本にとっては、苦肉の策であったのでしょうが、これが高速度でのすれ違い時の衝撃や揺れの問題を生んでしまいました。
それぞれの問題をどのように克服してきたのでしょうか。初代0系新幹線は、丸い鼻を持ったような顔をしていました。現在の東海道新幹線の主力車両“N700系”は、白地にブルーのライン以外は0系の面影はありませんね。それもそのはず、“遺伝的アルゴリズム”を取り入れてデザインされたからなんです。といっても文系のわたしにとっては、遺伝的アルゴなんたらというものは咀嚼できませんでしたが… とにかくそれを取り入れ、さらに、トンネル進入の際の断面積の変化率を一定にさせるという設計で、あの顔が完成しました。トンネルの問題をあまり考えなくてもいい海外の高速鉄道の顔と異なった日本独自のデザインになったのは、そのような理由からなんですね。またすれ違いの衝撃や揺れを減らすのに効果を発揮したことは言うまでもありません。

いかがでしたでしょうか? 日本の新幹線はすごいんですが、その弱みもまた色々とあるんです。それをさまざまな技術や対策で乗り越えてきました。新幹線の進化はどんどん続きます。これからも新幹線の進化からは目が離せませんね。

では、また!

分岐器

世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ⑤ ~たかが分岐、されど分岐~

“最高営業速度”“線路”の切り口から新幹線の弱さをお話しましたが、次は新幹線の“分岐(ポイント)”における弱さをお話していきますね。

東京駅や新大阪駅のような始発駅にはホームが何面もあり、たくさんの列車が入線して停車し、そして“ゆっくりと”発車していきます。途中の停車駅の大きな駅以外でも、“ゆっくり”と発車していきます。基本的な新幹線の駅の構造は、真ん中には通過していく列車のための直線の線路が、手前のホーム側にはその通過列車を避ける待避線と乗り降りするためのホームを兼ねた線路があります。この基本的な構造の駅で気付くことはありませんか? そうです、ホームに入ってくる時も、出発して行く時も、“ゆっくり”と走行して、スピードアップをしていく列車はいないのです。理由は簡単、駅の直前直後に設けられている分岐があるからなんです。しかも、スピード狂の新幹線らしからぬ“制限速度70㎞”なんですよ。駅を出入りする長い編成の新幹線が、うねうねと進んでいるのを思い出せるかと思います。あの光景は、“高速”と謳っている高速鉄道ではありえないんです。世界でも日本の新幹線くらいなもんです。
高速運転のジャマをする速度障害を出来る限り排除することが、高速鉄道の基本です。ですので、時速320㎞のスピード全開で疾走していたい新幹線に、制限速度70㎞とは残念な話ですね。フランスの高速鉄道のTGVでは、“65番分岐器”というものが使われていて、なんと“速度制限220㎞”! 分岐を本線から外れていく時にでも時速220㎞まで出せるとは、大したものです。実は、日本の新幹線でもTGVの時速220㎞とはいきませんが、“速度制限160㎞”の分岐があります。“38番分岐器”と呼ばれていて、長野オリンピックの開催に合わせて開業した当時の長野新幹線の群馬県の高崎駅あたり、今の北陸新幹線と上越新幹線の分岐に設置されています。その後、全国の新幹線に導入されていき…ということもなく、今でも多くの新幹線の駅では制限速度70㎞が残っています。その分岐器の可動部はなんと1,400mもありますから、東京駅や新大阪駅のようなところに設置するのは現実的ではありませんね。これがスピードアップの障害となっていますが、一度作ってしまった鉄道設備を変更するのはとてつもなく大変なようです。

海外の高速鉄道のトンネルよりも断面積が小さかったり、列車同士のすれ違いの距離も近かったりと、高速化を阻む障害がいくつもあるんですが、次回はそれらについてお話する予定です。

では、また!

除雪電車

世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ④ ~鉄道は足もとから~

日本の新幹線の弱みについてお話しています。前回は“最高営業速度”の切り口からでしたが、今回は“線路の弱さ”です。

新幹線の最高営業速度の引き上げには、騒音など克服しなければならない障壁が色々とあります。隠れ農業国であり広い起伏があまりないフランスのようの国と違い、狭く起伏が激しい国土の日本ではかなりの制約があります。東京や大阪のような都市圏を離れると車窓からは田んぼが広がってのどかな風景が…とは言っても、新幹線の沿線には民家があり騒音問題は深刻です。今は日々の研究の成果のお陰で、スピードアップと低騒音化を実現してきました。さらなる高速化には、1970年代の当時公害大国だった頃に作られた厳しい騒音基準をクリアしなければなりません。北海道新幹線の札幌延伸までにはその基準をクリアして時速360㎞運転を実現して欲しいものです。
少し話がずれましたが、日本の新幹線はそもそも線路の設計が悪いのです。東海道新幹線が開業した50年以上前は、時速200㎞超の高速鉄道は未知の世界でした。冬になると関ケ原あたりは積雪に見舞われ、新幹線がスピードを落として運転して遅れが発生していることが度々あります。豪雪地帯を走る東北新幹線や上越新幹線などと違い、東海道新幹線の車両は雪に強くありません。ですので、線路に積もった雪をスプリンクラーで水を撒いて雪を溶かしています。「じゃあ、それで問題ないじゃない。スピードを落とす必要はないじゃない。」という声が聞こえてきそうですが、実はそのスプリンクラーが撒く“水”に問題があるんです。東海道新幹線は、多くの区間で土を盛って高架作る“盛土”という方法で建設されました。土を盛ったその上にバラストと呼ばれる砂利を乗せ、さらにその上に線路を敷いています。なので、雪を融かそうと大量の水を撒いてしまうと盛土が崩れてしまうため、たくさんの水が撒けず、安全なスピードまで落としているんです。高速鉄道に初挑戦の東海道新幹線だったからこその弊害と言えますね。もちろん、東海道新幹線以降に建設された他の新幹線ではその反省を活かし、コンクリートの高架橋やバラスト(砂利)を使わないコンクリートで線路を固定するスラブ式軌道など、路盤を強化する方式を導入しています。

次回は線路の分岐“ポイント”についてお話したいと思います。

では、また!

高速鉄道

世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ③ ~夢の時速320㎞運転への軌跡~

前2回で、新幹線のすごさをお話してきました。本当はもっともっとあるのですが、ひとまずは大きく、そしてみなんさんみもわかりやすい“全国の路線網”と“運行ダイヤ”にについて取り上げました。ですが、新幹線も素晴らしいことばかりではありません。今日はそのウィークポイントに触れていきたいと思います。

“中国の高速鉄道網は日本の新幹線の9倍の長さがあります”と以前にお話しました。実はそれに加えて、もうひとつ日本の新幹線を上回っていることがあります。“最高営業速度”です。現在の中国の高速鉄道の最高営業速度は“時速350㎞”と、世界で断トツで1位となっています。2011年温州での衝突脱線で多数の死者を出したあの事故の後は、“省エネ”“運賃抑制”という理由で“時速300㎞”に抑えられていました。衝突脱線で高架橋から落下し大破したため、当局がもう生存者はいないということでその場で事故車両を埋めちゃった…という世界が唖然としたあの有名な事故ですね。しかし、2017年には“時速350㎞運転”を再開していますから、再び世界1位になりました。
ひるがえって、日本の新幹線の最高速度はというと、早い順に、東北新幹線が“時速320㎞”、山陽新幹線は“時速300㎞”、東海道新幹線は“時速285㎞”、それ以外の北海道・九州・北陸新幹線は“時速260㎞”、そして、上越新幹線はなんと“時速240㎞”なんです。ボロ負けというほどではありませんが、やはり負けてしまっている感はありますね。「世界をリードしてきた日本の高速鉄道の技術は、歴史が20年もない中国にもう追い越されてしまったのか…」と思われるのは早合点です。その理由は簡単です。日本の新幹線は、国鉄時代の赤字経営や民間企業として利益を出さなければなりませんから、「経済性」「安全性」を重視しています。つまり、“経済的営業速度”という考えを基に、それぞれの路線の最高速度を設定しています。東北新幹線がわかりやすい例かと思います。1985年(昭和60年)の開業当時は“時速240㎞”、岩手県の盛岡まで延伸されたころにはE2系が導入され“時速275㎞”となりました。その後は “時速300㎞”、現在は“時速320㎞”に引き上げられました。距離が延びたり、飛行機から客を奪ったり、その時の置かれた状況によってスピードアップしてきました。札幌まで延伸された際には“時速360㎞”を想定しているようですね。実際に日本の新幹線の走行試験での最高速度は“時速443㎞”を達成していますが、騒音対策などを考えると今のところ“時速320㎞”が限界のようなのです。2030年(令和12年)の北海道新幹線の札幌延伸時には最高営業速度“時速360㎞”を目指して次世代新幹線を開発中、まだまだ新幹線の高速化からは目が離せないところです。

新幹線の高速化を阻む要因は、実は色々と複雑に絡み合っています。それについては、また特集したいと思っています。“最高営業速度”以外にも新幹線の弱点はありますので、次回以降もお話していきますね。

では、また!

貨物列車

世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ② ~高速度の大量輸送機関として~

前回は全国に張り巡らされている…ほどではないかもしれませんが、日本の新幹線は全線に渡って黒字経営をしているということをお話しました。海外では不採算事業の部類に入る高速鉄道ではありえないことなんですが、日本ではそれが当たり前です。新幹線を運営しているJR各社の努力の積み重ねの結果でもあります。それについて、今回はお話していきたいと思います。

東海道新幹線の1時間あたりの本数をご存知でしょうか? 時速285㎞で東京~新大阪間を疾走しているのですから、ちょっと前がつまったらすぐに追いついてしまいますね。ちなみに、東北・北海道新幹線は時速320㎞で運転されています。東海道新幹線の時速285㎞は一分間に4,750m進む速さですから、1㎞進むのに約12秒ですからね。身近なところで1㎞を想像してみてください。それを12秒ってとてつもない速さでしょ!? そのスピードで走っている新幹線、多い時間帯では1時間に15本も走っています。間隔が5分よりも短いんです。列車は駅に入ってきてからお客さんの乗り降りを待ってそして出発、どう考えても2~3分掛かりますよね。全列車が停車する品川駅では、もうその光景は圧巻ですよ。しかも、その本数にもかかわらず、列車は寸分狂わず入線して発車していきますから、もうこれは日本でしか達成できない海外では不可能な神ダイヤですね。通勤電車とほぼ同じような運転間隔ですから、そのすごさがわかります。
東海道新幹線においてはすべての編成が16両で構成されています。1編成あたりの乗車定員は1,323名、1時間に最大15本ですから、単純計算で19,845名も運ぶことが出来るのです。全車満席ということはなかなかありませんが、朝と夜はかなりの混雑ですから、それに近い人数は運んでいるのではないでしょうか。年間約1億2,000万人を運ぶ東海道新幹線は、他の新幹線の中でも断トツの稼ぎ頭、東海道新幹線だけで年間1兆円も稼ぎます。東海道は今も昔も何百年も前から移動の大幹線、現在建設中の東海道リニア新幹線も黒字にできる自信もうなずけます。もし、東京~大阪間の移動が、8時間も掛かる在来線か、1時間で移動できるが定員が250名ほどの飛行機しかなければ、戦後の東名阪の発展はここまでではなかったかもしれませんね。

いかがでしたでしょうか? 日本の新幹線だから実現できたすごさと異常さがわかって頂けたかと思います。でも、そんな新幹線ですが大きな弱点がいくつもあるんです。次回以上はそれについてお話する予定です。

では、また!

新幹線勢ぞろい

世界に誇れる日本の新幹線のすごさとよわさ① ~新幹線網の総延長は?~

全4回のお話で、わたしがどれだけ鉄道愛があるかということがおわかり頂けたかと思います。「日本の鉄道はすごいんです!」という気持ちは伝わったかと思うのですが、その代表格として度々祭り上げられている“新幹線”についてのお話です。

2021年現在、日本全土に広がっている新幹線の営業路線はなんと総延長3,000㎞! 「あれ? 意外に短くない?」と思われたかもしれません。中国の高速鉄道の総延長は25,000㎞ですので、それに比べると9分の1ほどの長さですし、そもそも中国の高速鉄道の歴史は20年もありませんが、総延長だけでいうととっくに日本を追い越してしまいました。中国は国策として中国全土に高速鉄道網を張り巡らせるという大号令の下、とりあえず碁盤の目のように高速鉄道網を作り上げてしまいましたから、あれだけ広い国土がありますから当然といえば当然です。しかし、日本が新幹線建設の際に当初から重視してきたのは“採算性”です。1970年代、今の中国のように日本全土に新幹線を張り巡らせる計画がありました。岡山から瀬戸大橋を渡って高知に至る“四国新幹線”や、大阪から日本海側の鳥取や島根を経由する“山陰新幹線”、和歌山から徳島に渡り四国を東西に通ってまた海を渡って大分まで至る路線など、日本中を網羅する計画でした。今思うと無謀とも思いますが。実際に瀬戸大橋は新幹線が走ることが出来るように、線路を敷設する幅は、新幹線と同じ標準軌で建設されています。余談ですが、新幹線:標準軌(1,435㎜)と在来線:狭軌(1,067㎜)で線路の幅が違います。しかしながら、四国の在来線を運営するJR四国は、民営化以来ずっと赤字で厳しい運営が続いていますし、山陰新幹線が走っていたであろう山陰本線は、いまだに単線で特急は2両編成ですし、ちょっと無理があったのかもしれませんね。でも、夢を描くことはいいことです! そして、諦めることも… 
話をもとい、日本の新幹線の総延長は短いのでは?というお話でしたね。今は、鹿児島から九州を横断して博多まで至る“九州新幹線”、博多から新大阪への“山陽新幹線”、初代新幹線0系が走った東京への“東海道新幹線”、そして、東京から東日本を縦断して北海道へ至る“東北新幹線”と“北海道新幹線”と、日本列島を背骨のように貫いています。そこから、日本海側へ延びる“上越新幹線”“長野・北陸新幹線”もありますね。実は日本をざっくりと網羅しているのです。しかも、全線に渡って黒字です。中国の高速鉄道は、北京~上海間くらいしか黒字化できていないという状況ですから、日本の新幹線の堅実経営がよくおわかり頂けるかと思います。

まだまだ長くなりそうなので、今回はことあたりで。その新幹線にも弱さというか貧弱な点もいくつかあります。でも、次回ももう少し新幹線のすごさを語らせてください。

では、また!

世界に誇れる日本の鉄道④ ~続 “鉄道”という稼ぐ事業~

前回は“鉄道事業”についてお話しましたが、中途半端なところで終わってしまいましたので、続きをお話したいと思います。

世界的には鉄道事業は国営か国有が基本で、大体の国では不採算の事業だとお話しました。しかしながら、日本ではJRの上場4社と私鉄大手16社が乱立(?)していて、それはそれぞれの会社がしっかりと利益を出している世界的には特異な状況だということなんです。
なぜそんなに利益を出せるんでしょうか? 答えは簡単! “鉄道事業だけ”でもうけを出そうとしていないからなんです。まずはバスから始まって、駅ビルやショッピングセンター・ホテル・不動産・レジャー・広告・飲食・旅行・建設など多彩な事業を展開ています。例えば、すでに戦前にこの仕組みを編み出したのが“阪急”です。ターミナル駅には“阪急百貨店”を建てて、郊外には“宝塚歌劇”を作って、ホテルは“阪急ホテルズ”(今は阪急阪神第一ホテルになりました)に、沿線の住宅開発もして“阪急バス”を走らせて、“阪急不動産”が販売して、旅行に行くなら“阪急交通社”… もう沿線住民はがんじがらめですね。依存してしまっていると言っても過言ではありません。阪神なんかは、余っている高架下のスペースでレタスの栽培も始めちゃいましたしね。西で言うと“阪急”、東では“東急”が特に成功した例ではないでしょうか。この2大グループにいたっては、鉄道の売上は3割しかありません。ちなみに、JR九州の鉄道事業は、民営化以来ずっと赤字です。近年は天災の被害が多く、黒字化はさらに遠のいています。ですが、その他のグループ事業で稼ぎまくっていますので、しっかり黒字を出して上場を果たしました。逆を言うと、グループ事業の利益で赤字の鉄道事業を支えているといえるかもしれませんね。
 新幹線と飛行機のどちらが多く使われているか、と話題に上がることがあります。よく“4時間の壁”とか“700㎞の壁”と言われているのはご存知ですか? “4時間を切れば新幹線が有利”とか“700㎞を超えると飛行機の勝ち”と巷ではよく言われています。この法則が正しいのか否かは賛否あるのですが、700㎞あたりの東京~広島は飛行機の勝ち、新幹線で2時間21分の東京~新大阪は新幹線の圧勝、ってな具合です。鉄道を利用する回数は日本はぶっちぎりですが一回当たりの距離は短い、というお話を以前しました。これは、距離や時間によって飛行機か新幹線か在来線かを選べるということなんです。長距離は飛行機、中距離は新幹線、短距離は在来線か車と。さらに、短距離は車よりも鉄道を選びがちというところも、日本独特の傾向です。これは、JRや私鉄や地下鉄の膨大な鉄道ネットワークがあるからこそ成しえたと言えるのです。

はじめは3回に収めようと思っていましたが、つらつらと書いているうちに長くなってしまいました。“遅れ”“輸送人員”“鉄道事業”の3つの視点から日本の鉄道のすごさをお伝えしましたが、まだまだすごいところは山のようにあります。ちょっとマニアックな視点になるかもしれませんが、これからも温かい目でお願いします。

では、また!

世界に誇れる日本の鉄道③ ~“鉄道”は稼げる事業!?~

今回も引き続いて、“世界に誇れる日本の鉄道”について書いていこうと思います。前回・前々回は “遅れ”と“輸送人員”の観点から日本の鉄道のすごさをお話しました。今回は残りの“鉄道事業”の角度からお話したいと思っています。

さて、前回は“輸送人員”についてお話しました。世界第2位のインドを大きく引き離して日本はぶっちぎりの世界第1位で、日本人は日常的に鉄道を利用していることが分かって頂けたかと思います。しかし、こんな疑問も浮かんでくるかもしれません。フランスもドイツもインドも、どこの国も全国を網羅している鉄道会社は基本1社だけ。けれども、日本はJRも6社、私鉄にいたっては大手16社もあるから、「それぞれの会社が勝手にカウントしているだけだ!」という声が聞こえてきそうです。例えば、最寄の駅からJRに乗って都心まで行って、地下鉄に乗り換えて会社に行く… これですでに2回カウントされてしまっていますね。いわゆる、“他社線連絡”ってやつですね。だから、正確な数字じゃないんじないかと。仰せの通りなんです。乗車回数でみるとぶっちぎりの世界第1位なんですが、一人が一年に利用する乗車距離の合計は世界第2位、トップではありません。ちなみに、第1位はスイスの2,400キロ、日本は2,000キロ、第3位のフランスは1,400キロと、各国めちゃくちゃ大きな差は開いてないんです。「実はたいしたことないんじゃない?」と…
 この“他社線連絡”というのは、日本独特の発展を遂げたシステムなんです。JRと地下鉄をまたいだり、私鉄と私鉄を乗り継いだり、直通運転している列車もありますね。例えば、東京から広島まで新幹線を乗ったとすると、“東京~新大阪”はJR東海“、新大阪から広島”はJR西日本の2社、池袋から横浜の元町・中華街まで行くなら、“池袋~渋谷”は東京メトロ、“渋谷~横浜”は東急、“横浜~元町・中華街”はみなとみらい線となんと3社、例えを上げ始めるとキリがありませんね。鹿児島から新幹線で岡山に、そこから智頭急行を経由して鳥取、天橋立観光で北近畿タンゴ鉄道を経由して京都から新幹線で東京へ、そして、札幌へは寝台列車カシオペアに乗ってIGRいわて銀河鉄道を… もう数えるのをやめてしまいたいくらいの他社線連絡ですね。さすがにみどりの窓口の職員さんも路線図と端末とにらめっこは間違いありません。「ごめんなさい、職員さん」って気持ちになりますね。
これはどういうことでしょうか? 地方の赤字路線が第三セクターになって生き延びているというところもありますが、大手私鉄16社はどこもちゃんと利益を出して、それぞれが自立し、そして “民間鉄道”が発達したということです。逆に言うと、海外では鉄道は赤字で不採算な事業であり、鉄道が利益をあげているのは日本だけなのです。あくまで海外では“国営・国有”が基本であって、儲ける業種ではないのです。そこでまた、「国鉄は大赤字で解体したじゃないか!」という声も聞こえてきます。昭和62年(1987年)に国鉄が解体された時点での負債額は「37兆円」というとてつもない金額でした。JR東日本・東海・西日本が12兆円、借金返済のために組織された国鉄清算事業団は25兆円を背負わされました。今では、JR3社の負債は半分ほどに、清算事業団は17兆円くらいになりました。国営だとなまけちゃってたのかもしれませんが、これについてはまた改めて語りたいと思います。こうして、利益を出して借金を返済していっています。

思ったよりまだまだ長くなりそうなので、今回はこれくらいに。次回は引き続き“鉄道事業”についてお話したいと思います。想いをつらつらと書いているので、締まりが悪いですが温かく見守ってやってもらえるとうれしいです。

では、また!

世界に誇れる日本の鉄道② ~輸送人員は世界第何位!?~

前回に引き続き、“世界に誇れる日本の鉄道”について書いていこうと思います。前回は日本の鉄道のすごさを“遅れ”の観点からお話しました。今回は“輸送人員”の角度からお話したいと思います。

「249億人」
この数字はなんだと思いますか? 世界のそれぞれの会社や行政が“年間旅客輸送人数”を発表しています。一年間にその国で何人のお客さんが鉄道を利用したのか、という数字です。日本の人口が1億2,600万人、日本国民全員が一年に一回乗ったとすると“1億2,600万人×1回=1億2,600万人”というような計算です。例えば、前回に少しお話した世界に誇るTGVを擁するフランスは、世界6位の11億人。フランスの人口が6,700万人なので、一人が一年に16回乗っているということですね。この「249億人」という数字、なんと日本なんです。しかも、2位以下を引き離してぶっちぎりの1位なんです! 一年に197回は鉄道を利用してるってことなんです。2位はインドで65億人、一年にたった5回なんですよ。鉄道好きじゃない方でも、車両の屋根の上に満載のお客さんが乗ってるのをみたことありませんか? たくさんの人が利用しているように思いますが、そうじゃないんですね。あの屋根に乗ってる人たちはお金払っているのか、人数にカウントされてるのか、は微妙なところですけれど… 
そして、鉄道会社ごとのランキングでも、日本が独占しています。先ほどのフランスは、昔の日本国有鉄道(いわゆる国鉄ですね)のようなフランス国鉄(略称はSNCF)が全土の鉄道を運営しています。その年間輸送人員は「11億人」。これは東急(東京急行電鉄)とほぼ同じです。それよりも多いのがイギリス国鉄で「12億人」、ドイツ全土の鉄道を運営しているドイツ鉄道が「18億人」、このドイツ鉄道を同じくらいの人を運んでいるのがJR西日本なんです。本州の西側を担当しているだけなので、ドイツ鉄道の7分の1くらいの路線距離しかないのにです。そのほかには、JR九州で「3億人」、JR東海は「5億人」、大阪の地下鉄の大阪メトロは「8億人」、東京メトロと東京都の地下鉄を併せると「34億人」… そして第一位はJR東日本で、なんと「61億人」です! 首都圏の通勤需要はとてつもなく大きなものがありますが、本州の北側半分だけでですよ? 中国全土の輸送人員が「18億人」ですから、いかに日本の鉄道が人々を運んでいるのかがおわかりいただけるかと思います。ちなみに、JR東日本は会社ごとの鉄道の営業収入でも世界第1位! 1兆6,000億円というとてつもない大きな金額、営業路線の距離が何倍もあるフランス国鉄やドイツ鉄道をも上回っています。なじみがあり過ぎてご存じないかもしれませんが、JR東日本は世界最大の営業規模と輸送人員を誇る世界最大の鉄道事業者なのです。一番きっぷを売って、一番人を運んでいる、ということですね。日本の鉄道ってすごいでしょ!

今回はつらつらと数字が並んだ原稿に仕上がってしまいましたが、次回はその“からくり”と“鉄道事業”の角度からお話していきたいと思います。

では、また!